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過労死

 国内外の疫学調査によると週に55時間以上の労働は脳卒中や虚血性心疾患のリスクが増大させると言われている。医師は週に100時間以上働く人も珍しくはなく、小生の友人でも若くして突然死した医師はいる。いたましいことだ。お釈迦様も度の過ぎた苦行を禁止していた。昔から過労死する人は多かったのだろう。世のため、人のためと働く人は立派だが、過労死しないようにちゃんと休んでほしい。持続可能な努力の方が結果として多くの人を救う事になる。確かに人間は、ここぞと言う時に頑張らねばならないこともある。それはしょうがない。だが、人にやさしく責任感が強い良い人ほど無理をしてしまう傾向にあるので、職場では周囲にも気を配りたい。  去年、労働安全衛生総合研究所から発表された短報によると、30〜60歳代に模擬長時間労働を課したら作業中の血圧は50歳代以上で有意に高かったという。血圧の上昇は脳卒中や虚血性心疾患の危険因子だ。  時代劇などで登場人物が憤死するシーンを見たことがある人も多いだろう。あれは怒りのあまりに死ぬのではなく、怒りで血圧が上がった結果、脳卒中や心臓疾患などが惹起されたと見るべきであり、実際に起こりうる。血圧を甘く見てはいけない。過剰な塩分摂取を避けて十分な休養を取るのが大切だ。  もちろん、血圧だけが過労死の原因ではない。過労でうつ病となり自死する場合も多い。精神的に参った時もとにかく休んで、必要に応じて精神科を受診することが望ましい。  また、もし家族が過労死した場合、労災の申請をしないと補償を受けられない。労災の申請には時効があるので、もし疑問に思うことがあれば、なるべく早めに労働基準監督署に相談した方がいい。なお公務員の場合は身分により申請先が違うので、職場の事務方に問い合わせるのが早いかと思われる。嫌な話だが、過労死の疑いがある場合に、わざわざ労災の申請を勧めてくる企業や組織は皆無なので、疑った時は遺族が動く必要がある。現在、過労死と認められる目安は、脳や心疾患の場合は直近一ヶ月の時間外労働が100時間以上か、直近2〜6ヶ月の時間外労働が月あたりの平均で80時間程度とされる。心理的な負荷によるものの場合は、それを認めるうる特殊な出来事があったのかなどが争点となる。  過労死をゼロにする為にも、人類が思いやりの心を持つように祈る。

プロゲーマーによる障害者への侮辱発言

 戦争ゲームを見せ物にすることでお金を稼ぐSaRaなる芸名のプロゲーマーが、そのゲーム動画の実況配信中に障害者を侮辱する発言をしたと話題になっている。その時の動画を確認すると、ゲーム中に安全そうな場所に敵がいないかわざわざ確認したプレイヤーに対して「障害者やろ、マジで」と暴言を吐いている。  ネット上では10年くらい前から知的障害児を揶揄するガイジという言葉が流行っていた。ガイジという言葉は批判する相手が実際の知的障害児でなく、単に嫌いな相手が何かしら失敗をした時に使われることも多かったので今回の用法と似てはいる。この言葉に対する批判は強く近年ではあまり聞かれなくなったが、障害児という単語を直接的に相手を馬鹿にするために使うのが憚れるのでガイジと隠語風にして言っていたのだと考えると、障害者という単語を直接的に相手を馬鹿にするために使った今回の発言の異常性が際立つ。世界に向けて配信している仕事の動画で差別発言をするのだから、逆にSaRa氏の社会的常識の認識の方が気になるところではある。  障害者を障がい者や障碍者と記載することもある。害の文字の印象が良く無いからとのことで地方自治体などが採用している場合が多い。一方で、一部の障害者団体などは、障害とは社会の側にある差別の問題であり害の文字を隠すことで問題の本質を分かりにくくするから障害者で良いとする意見も出ている。なお、政府や中央省庁の使用する書類では今でも障害者の表記だ。障害者差別は単に個人の問題ではなく、差別の構造を内包する社会の問題だとも言える。  差別主義者は、自分や家族や友人もある日突然に障害者となる可能性があることを思い出すべきだ。福祉や医療の整った安心できる社会の構築のためにも、障害者に対する根深い差別意識は取り除いていく必要がある。

もしも社会福祉制度が無ければ

 ネットなどでよく見られる福祉不要論だが、とんでもない話だ。確かに過重な福祉は国庫を圧迫しうる。だが、弱者を助けることが無駄であり社会の負担だという意見は間違っている。社会福祉は単なる慈悲ではなく、安定した社会の維持の為には必要不可欠だ。  もし、社会福祉制度がなければ、老衰や怪我や病気で介護が必要となった場合に生活の質を保って生き残れるのはごく少数の富豪のみとなる。小金持ちでも生存は可能かも知れないが、国民の圧倒的多数である貧乏人は苦しみながら死ぬしかなくなる。そのような状況では、貯金をする余裕がある人は介護に備えお金を使わずに貯め込むようになって景気は減速する。また、経済的に余裕がない人は刹那的となり犯罪が増加するだろう。福祉は富の再分配の意味もある。そして、福祉制度が整っている安心感があるから国民は安心して働ける。要介護者は納税者の負担だから殺せなどという思想が支配的な国では社会も荒もう。実際に弱者を標的とした殺人事件がおきると福祉不要論に基づき、殺人犯を褒め称える人が出現するが彼らは非道徳的であるだけでなく、福祉がなくなることによる社会の負担を何も分かっていない。  先日、デイケアサービスで利用者に古典などを学校の授業風に教える取り組みが紹介されたところ、認知症の老人に無駄な税金をつぎ込んだとして烈火の如く怒る人達がいた。彼らは何か勘違いしているようだが、デイケアで経営者が学校風のサービスを提供しても介護保険で認められる単位数までしか公的資金は支出されない。あとは利用者の手出しであり、高額なサービスをわざと利用させて補助を多くもらうことは不可能だ。また、利用者の注意が一点に向く授業形式は安全管理の面でも優れている。もちろん、利用者の満足が第一であり人気を博しているのなら続けてよいだろう。そもそも認知症と言っても程度には大きな差があり、この取り組みに文句を言っている人らは、何も分からぬ寝たきりの重症の認知症患者を想起しているのかも知れないが、軽度の認知症なら人間らしい生活は可能であり福祉の精神からは生活の質をなるべく保つように努力すべきだろう。

オクラホマの中絶禁止法

 2022年4月12日、アメリカはオクラホマ州で前代未聞の中絶禁止法が可決された。それは妊娠の週数に関係なく、母体保護のため緊急を要する場合以外の全ての妊娠中絶を禁止するというものだ。この中絶禁止には強姦による妊娠も含まれる。母体に危険があっても緊急性がなければ中絶できないのなら、事実上完全な中絶禁止と同義だ。  これは週数の制限も撤廃されたという意味で、去年9月から施行されているテキサス州の中絶禁止法よりも徹底している。なお、避妊薬の使用までは認められている。罰則も中絶を行った医師に禁錮10年以下の懲役か10万ドル以下の罰金あるいはその両方が課せられる。これで中絶をしようとする医師はいまい。  つまりオクラホマ州では、健康状態から妊娠の継続に不安があっても、強姦の結果出来た子でも、経済的に出産が困難な場合でも中絶は認められない。中絶が合法な州の病院にいける金銭的余裕がある人間はまだ良いが、貧困層が中絶せざるを得ない場合は一般の医療にアクセス出来ずにリスクが高い非合法施設での手術や投薬を行うか、諦めて高リスクの出産をするしかなくなる。  このような非人道的法律が成立したのは、アメリカ南部を中心に広がるプロライフ派と呼ばれるキリスト教原理主義思想の影響が強く、反ワクチンなどの非科学的カルトとも親和性も高い。彼らがアメリカに政治に強い影響力を持ち始めているというのは由々しき事態だといえる。類似の中絶禁止法はテキサス、ミシシッピ、アリゾナ、アイダホ、そして今回のオクラホマで成立しており油断ならない情勢だ。

刑法に抵触しない悪への対処法

 世の中には刑法に抵触しない悪がある。近年で最も身近な例を言えば、ワクチンに関する陰謀論だ。新型コロナウイルスワクチンやHPVワクチンなどに関する(打つと死ぬとか不妊になるとか謎の機械が埋め込まれるとかの)明らかな誤情報を宣伝すること自体は、言論の自由の名の下に取り締まりの対象ではない。だが、これらの情報を信じた為に死んでしまった人は多い。これは、情報が正しいかどうかを見極める力に劣った人達を狙った詐欺であり、信じた人は命の危険と引き換えに様々な詐欺的商品を買わされる危険も増す。また、こうした集団の存在は感染の拡大を招くので公衆衛生にとっても脅威だ。個人的にはこうした詐欺師やその信者及びこれらの危険な誤情報を流布する報道機関や出版社は取り締まるべきだと思っているが、法的整備がなされていない。もし、私が彼らを私的に逮捕拘禁すれば、刑法により処罰されるのは私の方だ。だから、現状を変える為には私刑を執行することではなく、法整備を目指して政治に働きかけるのが合法的で正当な手段ということになる。  だが、法的な整備を目指したロビー活動は遅々として進まない。ご存知の通り、国会議員にも詐欺療法を信じて擁護する人達がいるからだ。最近、こうした詐欺師たちの横暴に痺れを切らして、正しい医師らが詐欺師たちに現行法で対処できる範囲で抵抗しようとする動きが見られる。素晴らしいことだ。頑張ってほしいと思う。  それを踏まえた上で、少し考えた方がいいと思うのは、先述のワクチン陰謀論など多くの死者を生む公衆衛生上の極めて深刻な脅威に対しては全力で叩きに行って良いが、直接的にも副次的にも死亡や健康被害が出ることがほぼ無いが宣伝されている効果も無いような医療詐欺に関しては、それを指摘して相手が謝罪し詐欺的治療を撤回したのならば、それ以上叩かなくてもいいのでは無いかということだ。日本の刑法だって教育刑が基本であり、死刑以外は吊し上げや見せしめの効果は期待されていないはずだ。既に謝罪した人を吊し上げて、次はお前だぞと見せしめにすればなるほど詐欺は減るかも知れない。しかし、保険外の処方を詐欺としてではなく効果があると信じてする医師も多く、彼らに恐怖を与えるより、間違いを指摘してあげた方が平和的ではなかろうかと思う。  語弊を恐れずに言えば、日本の医師の中で保健適応外の処方をした事が無い人は一体どれくらいいる

高齢医師には反ワクチン派が多いのか?

 某有名小説家や若手の医師などがまことしやかに高齢の医者には反ワクチンやコロナ陰謀論の支持者が多いと言っているが果たして本当だろうか?  確かに医学部を卒業して引き続き研修医として教育を受けている若い医師で荒唐無稽な陰謀論を信じる人は皆無であろう。教育の力は偉大だ。ならば上記の爺医(ジジイ)老害論は正しいのかというと違うと思う。  そもそも、高齢の医者でも陰謀論を信じている人はかなりのレアキャラだ。しかも、紹介状のやりとりがある地域に数人程度はいる陰謀論的な思想の医師も必ずしも高齢者ではない。高齢の医者なら変な奴だということは無い。むしろ例外だ。  ただ、例えばワクチン接種に関して若い人ほどは積極的に勧めない高齢の医者は多い印象がある。医師は臨床年数が長いほど、激しいクレームに遭う経験が増える。医学的には自分の診療と全く関係がない患者の死亡や障害でその家族からお前が悪いと詰め寄られた経験の無い者は、よほど幸運であったか患者を診た数が少ないかのどちらかだろう。  こういう経験を経てきた医者は他人に何かを勧めることは避ける傾向が生まれる。治療の説明の際もリスクベネフィットを淡々と説明して患者に選ばせるようになる。当たり前だが素人が治療の指針を決めるより、専門家が決めたほうが治療がうまくいく可能性は高い。本来ならば医師はワクチン接種を強く広く勧めるべきなのだ。だから小生は自分の担当する患者に関してはワクチン接種を勧めている。だが、患者からどうすればいいのかと訊かれた時に、説明だけして患者の自己責任で決定せよと伝える医者もそこそこいる。こうした姿勢が高齢医師に反ワクチン派が多いとの認識を若者に与えているのかも知れない。  しかし、若者がこうした高齢医師を批判する時に、高齢の医者はエビデンスに基づく教育を受けておらず劣っているからだという意見が多いようだが、これは見当違いも甚だしい。医師はリタイアするまで勉強の連続を必要とする。医師が高齢だからエビデンスを無視するなんてことはありえない。もしいても個人の問題であり、高齢者が皆バカだ的な批判は暴論だ。むしろ、これを言う若者は一体どんな変な医者ばかりいる劣悪な環境で医業をしているのかを想像し可哀想になる。

有名医師の「反戦」慎重論に異を唱える

 コロナ禍において日々正しい医療情報の提供に従事するネット上の有名人は多い。そんな彼らの中の決して少なく無い一部の人たちが、今回の戦争に対して口を挟まないと明言している。戦争反対とさえも言わないのだ。  彼らの理屈はこうだ。戦争や政治の専門家で無い自分達は、この戦争に関して一体何が正しいのか分からない。だから迂闊に意見を表明すべきではないというものだ。これは一見すると正しいことのようにも思える。  だが、ならば彼らが日々必死になって伝えている正しい医療情報と、誤った陰謀論の修正も同じことが言えないだろうか?彼らの意見は医療者などの専門家以外の人はワクチンや手洗いやマスク着用などに関しての正誤が分からないから判断保留しこれらの感染防御対策を行わないのを是とすると言うのと同じだ。  確かに、戦争開始前から真偽不明の怪しい情報は行き交っている。こうした煽りに反応しないのは大切なことだ。だが今回、ロシアが軍事力をもってウクライナの主権と領土を侵し現状の変更をしようとしたのは間違いない。明らかな国連憲章違反だ。この暴挙に対してすらどちらが正しいのか分からないと言うのならば、彼らは侵略戦争すら条件によっては是認されるという思想を持っていることになる。  もし彼らに、そんな意図が無いのならばせめて「戦争反対」とは言うべきだ。逆にもし彼らえが侵略戦争万歳のマッチョ主義であるならば、あくまでも僕ちゃんは中立ですのなどと言う詐欺行為はやめて堂々とファシズムを賛美すれば良いのだ。

てんかんと交通事故

 時々、報道で騒がれるように、てんかんの患者が治療を怠った状態で重大な事故を起こすことがある。それにより真面目に治療していているてんかん患者まで社会的にバッシングを受けがちなのは問題だ。一方、心筋梗塞や狭心症の患者が治療せずに暴飲暴食や喫煙を続けて突然死した結果なにかしらの事故が起きても、特に病気が悪いようには報道されないし、虚血性心疾患の患者がいわれなきバッシングを受ける事もない。こうした事実はてんかんに対する社会的偏見が根強い事も物語っている。  さて、先日発表された報告(※)によると2014年にいわゆる自動車運転処罰法が改正・厳罰化されたが、その後もてんかん発作による交通事故は減少していないという。また、てんかん発作により事故を起こした患者の65.4%が非合法的に免許を取得・更新していたと報告されていた。  本文では様々な検討がされていたが、さしあたり上記の事実だけでも、深刻な事態だと言える。ただ同時に、もし非合法的に免許を取得・更新したてんかん患者を事前に取り締まれていれば、こうした事故は1/3程度に減らせていたことになる。  てんかん患者が何故に嘘をついてまで免許を不法に更新するのかは明白で、合法的に免許を維持するには発作後すくなくとも2年間は治療を受けていても免許が失効することにある。真面目に治療をうけても治療がうまくいかなければ免許は戻ってこない。仕事に自動車の運転が必要な人にとっては死活問題だ。当たり前だが、日常生活にも不便な頻度で強い発作を起こす人は危険だとの自覚も強く違法行為をしてまで免許取得や更新をしようとする人は多くない。違法に免許を取得・更新するのは、自分なら大丈夫だろうとのバイアスを持った、発作の頻度が比較的頻繁では無い患者たちが主となる。  現在の法律では、最後の発作から2年を経過して、治療などにより当面の再発の見込みが無いと判断されればてんかん患者も運転できる事になっている。2年の観察期間が妥当かどうかは別として、治療をしていても一定の期間をあけなければ、治療の効果判定には苦慮する。例えば、毎日毎日発作を起こしていた人が、治療を開始した途端に発作が起きなくなれば治療の効果があった可能性は高いが、元々半年に1度くらいの頻度でしか発作が起きない人に治療を行って1年ほど発作がなくてもそれはたまたまかも知れない。だから、患者は通院で経過を観察

横暴な老人

 現実世界でもネットなどの目撃情報でも散見される横暴な老人達は、旧世代の非常識さを糾弾する為のツールとしてもしばしば使われる。すぐ暴力に訴える、列に割り込む、痴漢行為を平気で行う、道路で尿や痰を平気で出す、などなど枚挙にいとまがない。  確かに昔の常識は現代の常識とは非なる物だ。横暴な老人は昔の価値観に固執した困った人なのかも知れない。しかし、巷に多数跋扈するモンスター老人の中には、少なからず心や脳を病んでいる患者が混じっている。  年齢を重ねると脳卒中や外傷や変性疾患や一部の薬物など様々な原因によって、脳の機能が障害され、衝動や感情が抑えにくくなる脱抑制という状態になる事がある。そうなると嫌な相手にはすぐ暴力をふるい欲しい物は奪い、わがまま勝手になってしまう。  元々そういう性格の人であるならば不思議は無いが、歳をとってからおかしくなった人は一度は検査を受けた方が良いだろう。治療で未然に防げるトラブルは防いだ方がいい。そうした努力で無駄な世代間対立が避けられれば、副次的にも良いことだ。

陰謀論者は精神疾患か?

 もしあなたがある日突然、絶大な力を持つ悪の秘密結社から自分たちの世界が攻撃を受けていると気づいて、そんな特別なことに気づいた自分の事を運命に選ばれた戦士だと信じて、実はその秘密結社の手下である有名人や有名企業に対して戦いを挑もうと決心したのなら、それは精神を病んでいると考えるべきだ。被害妄想や誇大妄想などが特徴的なパラノイアと呼ばれる状態だ。分類によっては統合失調症の下位分類だったりパーソナリティ障害の一つともされる。こうした妄想に取り憑かれ行動してしまうと日常生活に支障をきたすから、通常なら治療が必要な状態だ。  ところが今、巷にはこうしたパラノイアに似た症状をもつ人々で溢れている。陰謀論者だ。彼らはイルミナティーだとかディープステイトとかと呼ばれる非実在の秘密結社が世界を操っていると信じている。新型コロナウイルスもその悪の秘密結社によって作られた兵器だったりデマだったりして、秘密結社が人類を支配するために製薬会社に作らせた怪しいマイクロチップが入ったワクチンを全人類に接種させようとしているなどと本気で信じている。  詐欺師達は陰謀論を煽り、動画再生の広告収入やデマ本を売った利益で儲けようとしている。陰謀論者は詐欺師に騙された可哀想な人だとの考えも可能だが、果たして本当に騙されただけなのかは疑問だ。  そもそも、そういった陰謀論は今日の詐欺師が一から考えてその信奉者を増やしたものではない。例えば、陰謀論で頻繁に登場する世界を支配する悪の秘密結社イルミナティーについては、同名の団体が18世紀に実在している。もっとも実在したイルミナティーは知的階級のフリーメーソン趣味的な集いに過ぎず既に滅んでいる。その後継を名乗るいくつかの魔術結社は現在にも続いているが、政治的に大した実力はない。だが、イルミナティーの名は、その後も世界を牛耳る闇の組織として語り継がれていく。つまりは、イルミナティーというファンタジーは200年以上の歴史を持つ伝統ある陰謀論であり、ディープステイトもその焼き直しだ。古くから存在する都市伝説的陰謀論は、時代に応じて変形しており、断じて今日の詐欺師が作り上げたものではない。歴代の詐欺師は、すでにそのような陰謀論を信じている人からうまいことお金を巻き上げているだけだ。  馬鹿馬鹿しい陰謀論など一時の流行だと思われる人も多いだろうが、イルミナティの話は長年に

不酤酒戒と不飲酒戒

 仏教の戒で最も守られていないものとして有名なのは、飲酒を禁じた不飲酒戒だろう。不飲酒戒は守らなかったら懺悔を要する努力義務のようなものだ。しかしながら、菩薩戒を授けられる時の十重禁戒の中にある酒の売り買いを禁じた不酤酒戒は、これに違反すると菩薩としての地位を剥奪される重罪となる戒だ。不酤酒戒では、自分自身のみならず他人に酒を売買させることも禁じられている。  実際に飲酒するよりも売買する方が重罪になるのはおかしいと思う人は多いかと思うが、お酒を違法薬物だと考えるとわかりやすい。麻薬売人が自分自身で麻薬を摂取することは少ない。その恐ろしさを熟知しているからだ。つまり麻薬のように恐ろしいものをお金のために他人に摂取さえるのは、悪を禁じ善をなし他者を救う菩薩の使命から考えるとあってはならないこととなる。だから不酤酒戒は重罪となる。  しかしながら、仏教徒の中にはお酒にまつわる仕事についている人も多い。そして、生活自体が不酤酒戒に反している彼らは菩薩になりえないことになってしまう。在家も菩薩となるべき大乗仏教においてはなかなかの問題だ。だが、実際のところ、日本では仏教勢力により酒屋さんが糾弾されることも無く、出家も在家も飲酒者が多いので黙殺されがちな戒ではある。  医療現場からの視点では、アルコール依存症や飲酒による脳や肝臓の障害ばかりでなく、飲酒が原因の一つになったと思われる転倒や交通事故や脳出血などを考えれば不飲酒戒の徹底をお願いしたいところだ。しかし、不酤酒戒に反する方々のおかげで大いに助かったこともある。今回のコロナ騒動の初期に消毒用のアルコールが不足した時は全国の酒造業者の努力でアルコールが増産された。実数には現れないが、これで救われた命も多いだろう。  個人的な話でも寒空を歩いたあとの屋内で飲むホットワインは至福の一杯だ。これはお酒ではなくキリストの御血だということにしておこう。わざわざ異教の神を持ち出さなくても日本には般若湯と呼ばれる伝統飲料もあることだし良いのだが、それでも飲みすぎないようにするべきだと思う。

コロナによる一般病床の減少

 去年の夏頃も同じような事を言いましたが、新型コロナウイルスの再流行に伴い、コロナの患者用の病床だけでなく、一般病床も不足しています。  一般に大きな病院では看護師一人当たり七床のベッドを担当します。コロナの場合は個人防護具の着脱などの感染防御に手間も取られることから、看護師一人当たり一から二床の担当をすることになります。つまり新型コロナウイルス感染症で入院を必要とする患者様が増えると急速な看護師不足に陥ります。よって一般病床も減ります。  とある不見識な政治家は国立病院機構の5万床に5千床のコロナ病床を提供するように命令すれば出来ると自信満々に言っていましたが、その場合は一般病床を完全に潰さなくてはなりません。田舎の方では国立病院は高度医療や三次救急最後の砦となっている場合も多く、その機能を完全に停止させるような事が起きれば、多くの人がコロナ以外で死ぬことになります。  こうした事態を避けるためにも感染防御を徹底し、また、生活習慣で予防できそうな病気や怪我になるべくならないようにご協力お願い申し上げます。

オミクロンと進化論

 1月9日に公開されたAbema的ニュースショーで舛添要一元厚生労働大臣が新型コロナウイルスのオミクロン変異についてまたおかしなことを言っていた。舛添氏は東京大学法学部卒であり学歴的に言えばエリートだと言える。しかしながら、ウイルスが意思をもって合目的に進化するなどといった少なくともダーウィニズムには反する事を公に発言してしまっている。しかも、その場に居合わせた番組のキャストも誰一人としてツッコミを入れていない。日本の教育制度にいかに問題があるかを物語る一幕であった。他にも酷いことを吹聴していたが割愛して、本日は進化論に関する誤解を説明していきたい。  まず、はじめに断っておくが舛添氏が抜きん出ておかしい訳ではない。学歴や経歴を考慮すると問題ではあるが、日本人の大半は生物は何かしらの目的のためにその意思をもって進化したのだと信じている(ちなみにウイルスは一般的には生物ですらないとされる)。もちろんこれは間違いなのだが、教育系のテレビ番組でも、例えばキリンは高い木の葉を食べるために首を長くする進化をしたのだという感じの間違った説明はしばしばされる。彼らの発想では昆虫の擬態だって捕食者から身を守りたい個体の祈りが天に通じてその身を変じたかのような言いようだ。この文章を読まれている方の中にももしかしたらそのように思っている人がいるかも知れない。  さて、日本を始め世界中の学校でスタンダードとして教えられている進化論はダーウィンの進化論の系統のものだ。先に私がおかしいといった目的論的な進化論はラマルクなど古い世代の説であり、ポケモンの進化のようなおとぎ話だ。ダーウィンの時代は遺伝子はまだ明らかになっていなかったが、概ね次のように考えられていた。それは、個体間には形質の差があり、環境によって生存や繁殖に有利な形質をもつ個体が選別されて増えた結果、その形質が世代ごとに蓄積されていくというものだ。だから、キリンは首を伸ばしたくて伸びたのではなく、首の長い個体が生き残りやすかったから徐々にそうなったのであり、昆虫の擬態も様々な変異のうち捕食者に発見されにくい個体の特徴が引き継がれてきた結果に過ぎない。そういう特徴を持ちえなかった集団は環境に適応した他の進化を遂げたか絶滅したかということになる。後に遺伝子やその仕組が解明されていっても、ダーウィンの唱えた進化論の大枠は変わっていない。

野巫

 ヤブ医者の語源という説もある野巫は、呪術で病人の治療をしようとする医術の理解に乏しい田舎者の医者のことだ。天台の摩訶止観でも一部だけを知って本義に疎い学に欠ける禅修行者の例えとして用いられる。  現代でも、エビデンスに基づかず、医者個人が勝手に効くはずだと思い込んだだけの無効だったり有害だったりする薬の処方が行われることがある。その非科学的な不思議な力を信じる患者も付き従っている。まさに野巫だ。天台の野巫と同様に、彼らは一応は医師免許をもっており断片的な知識はあるので、知識がない人が聞くとそれっぽく聞こえるのはやっかいだ。  もし、無治療なら患者の1割ほどが死ぬ病気があったとして、その患者たちが野巫の治療を受けても9割ほどは助かる。そうすると、実際にはなんの役にも立っていない野巫は助かった人達からすごい医者のように言われるのだ。ちゃんと治療すればほぼ全員たすかったのに沢山の人が死んだという事実を信者たちは無視し、それを指摘する健常者を陰謀の主のように言って攻撃さえする。  医療業界では標準的治療が殆どの場合で最適な治療法だ。その治療法が現在選択できるものの中では一番効率が良かったから広まったのであり当然だ。どこかの野巫だけが知っている世界一優れた治療法なんて信じてはいけない。

オミクロン変異と時間稼ぎ

 オミクロン変異は強い伝播性をもつ。流行を防ぐことは困難だろう。岸田首相の指示により行われた水際対策は抜け道もあったものの、他国と比べては上出来で、オミクロン変異の流行までの時間をかせぐことが出来た。  問題は稼いだ時間で何か準備が出来たのかというと怪しいことだ。前倒しでの3回目のワクチン接種や、5-11歳のワクチン接種も既に有効性と安全性が確認されたのだから実施の許可を出すべきだったのだ。3回目は医療関係者でもまだ一部しか実施されていない。  もうオミクロン変異の流行は始まっている。稼いだ時間を有効に利用出来なかったのは残念だ。日本はワクチン接種率も高く他国よりはマシなのかも知れないが、第6波では相当数の感染者が出るのは間違いない。  当院でもまた一般病床が減るだろう。コロナ対策は新型コロナウイルス感染症の患者だけの問題ではない。他の疾患の患者に対応するマンパワーも減る。流行が抑えられなくてもピークを抑える事が大事だ。患者が爆発的に増えれば薬剤も人手もベッドも供給が追いつかなくなる。引き続き、マスクの着用や手洗いや三密を避けるなどの対策を続け、ワクチンのより幅広い実施も進めなければならない。  また、デルタ変異よりもオミクロン変異の方が弱毒化しているのは間違いないが、デルタ以前と同程度かそれよりもやや強いとされており一部の陰謀論者がいうようなただの風邪では断じて無い。市中にはまだデルタ変異も残っているし、オミクロン変異でもワクチン未接種者にはコロナ禍の始まった当初と同様に危険だ。  強い伝播性をもつウイルスは防ぎきれず蔓延し、それにより集団免疫の獲得は達成できるかもしれないが、そうなる過程での死者や後遺症を残す人は少ない方がいい。一般人も、陰謀論を主張する詐欺師もそれに騙されている被害者も等しく健康であるように祈る。

飲む中絶薬

 内服する人工妊娠中絶薬ミフェプリストン(と中絶胎児排出目的のミソプロストールのセット)が今週ラインファーマ社から厚生労働省に承認申請される。1年以内には承認される見通しだ。  人工妊娠中絶の手術は母体に大きな負担となるため、内服薬が承認されれば中絶する女性の心身の負担を緩和するのに役立つ。ミフェプリストンは1988年から一般に使用され既に80ヶ国近くで承認されており安全性は十分だ。手術と違って術者による当たりハズレが無く、ヒューマンエラーが起きる可能性も少ない。費用も手術より圧倒的に安く、手間や苦痛も少ない。画期的と言ってよい薬だ。国によって違いはあるが今回の申請では妊娠後63日目(第9週)までの服用が必要になるとみられる。ある程度の時間的余裕はあるので、気がついた時には内服出来る時期を過ぎていたという人もさほど多くは無いだろう。また、悪用を防ぐためにアメリカでは医師が見ている前で内服する形となっている。  コロナ禍の影響か令和2年の日本の人工妊娠中絶件数は14万5340と令和元年の15万6716より減少したがかなり多い。飲む中絶薬が認可されれば中絶が増えるのではないかと危惧する声もあるが、カナダでは中絶薬の導入前後で、明らかな中絶率や有害事象の変化はなかったという例もある。中絶手術費用が高額でも妊娠を継続し出産した方がかかる費用は高額であり、中絶の必要がある人は無理をしてでも中絶するものだ。また、出産の意思がある妊婦が、中絶費用が安くなったからという理由で中絶することもまずいないだろう。どっちみち中絶率が変わらないのなら中絶する人の経済的精神的肉体的負担を軽減するのはよいことだと思う。  個人的には全ての子供に無事生まれて幸せに生きて欲しいと思うが、例えば強姦などで望まぬ妊娠をした女性に命の危険まで背負わせて出産させるのは非人道的といえる。また、貧困状態で妊娠してしまい中絶せざるを得ないこともあるだろう。母体が妊娠に耐え得ぬ状態ならば言うに及ばない。中絶絶対反対のプロライフ派の人が想像するような気軽に胎児を殺しまくるサイコパスはいてもごく少数であり、彼女らの蛮行を防ぐためにその他大勢の人を不幸にするのは間違っている。  飲む中絶薬が無事に承認されるように祈る。

健康詐欺

 個人的には自分が担当する患者様が、法外な値段でなく健康に害がない程度のサプリメントや健康食品や健康グッズを使うのを無理には止めない主義だ。もちろん特別な効果があると思っている訳ではなく、それで本人が安心するのならそれはそれで良いからだ。ただし、サプリメント等の効果は食品以上のものでは無いことや過剰摂取の危険性などは説明してるし、健康グッズに関しては正直に気休め程度であることと適正に使用しないと危険であることも説明している。  以前は怪しい電気治療機を何百万円もの金額で買わされたり、核酸飲料なるおよそ殆どの食べ物に含まれているであろう成分の飲み物を何万円もの高値で買わされていた患者様もおり、そういうものに関しては、無害そうでも詐欺ですよと教えてきた。しかし、敵もさるもの、近年では微妙に高い程度の金額設定が増えている。本人が騙されたと分かっても、被害金額がそこまで高くなければ家族にバレにくく、本人も恥ずかしがって黙っていることが多く、結果として詐欺師が訴えられるリスクが減る。薄利多売を目指しているようだ。  こうした詐欺被害の多くは認知機能に障害を来している独居老人だ。認知機能の低下で騙されやすくなっているのもあるが、ずっと孤独に耐えかねていたところに訪問販売員を装った詐欺師が親切そうな顔で話を聞いてくれるのだから情に絆される面もある。こういう事態を避けるためにも、家族の支援が期待できない患者様には公的な介護サービスの積極利用を勧めているがいやがられることもある。また、公的サービスを利用してもデイサービスなどで詐欺商品が口コミの蔓延をきたす場合もあり注意が必要だ。  先日、私の担当するごく初期のアルツハイマー型認知症の患者様(仮にAさんとしておく)に次のような話があった。Aさんにもアルツハイマー型認知症の患者様にスタンダードに投与されるドネペジルという薬を処方していた。ドネペジルは言うなれば認知症の進行を緩やかにする薬であり、内服を続ければ認知症が治るようなものではない。それゆえに、初期からの投与が重要となる。認知機能の低下が進行し生活や生命の維持にも重大な問題が発生するレベルまで病状が悪化してから投与しても意味はない。認知症患者の大半は高齢者であり、認知症の進行をある程度抑制できれば、寿命まで人間らしい生活も可能となりうる。そんなAさんは健康食品の訪問販売を受けてお

未だにテレビでは

 テレビはあまり見ないから気づかなかったがYTVでとんでもない番組が放送されていたようだ。 https://twitter.com/netabaremtg/status/1469215355705106434  コロナは流行らせたほうがいいなどという馬鹿なことを言っている。流行らせて変異も大量に生ませて長期化しても、危険因子を持つ人が死にまくって健康な人もある程度死んで残った大体の人が免疫を獲得すればそりゃまあいつかコロナ禍は終わるだろうさ、大量の人命と経済的損失を残して。ワクチンや治療法の改善に注力してより短期間で終息させた方が圧倒的に死者も経済的損失も少ないのは明白だ。  さらに問題なのは、こんな番組を作っても多くの人がチェックもしただろうに放送されてしまったということだ。この番組制作に携わった多くの人は何がおかしいのかを理解していないことになる。日本社会の知的敗北だと言ってよい。しかも、この番組をみてそのまま信じてしまう人だって出てくるだろう。  科学的に明らかに誤った情報の流布は言論の自由ではない。今回は特にこの情報によって人命が奪われるのだからテロに等しい行為であり、行政的な処分を強く望む。

老い

 人間誰しも健康でいたいものです。若くて持病も無い人間はあまり健康に気を使う傾向にはありませんが、これは健康であるのが当たり前だと感じているからです。年齢があがり老いてくると、目は見えにくくなり、体力も弱り、あちこち痛くなって、その他も多くの障害が出てきます。人は健康を失ってからしか、そのありがたみを実感できません。  老いは仕方のないことです。老いに抵抗する努力により健康寿命を伸ばすことは可能ですが、いつか必ず敗北します。それなのに何がなんでも人生最強の状態にしようと、現在の年齢や体力を無視したハードなトレーニングをすれば体を痛め、かえって体力を落とすこともあります。逆にどうせ老いるのだからと何もしなければあっという間に筋力が低下してしまいます。適切な強度の運動が効果的です。何事もちょうど良い加減というものがあるのです。成仏するまで中道の視点を目指したいものです。  診療現場では、病気の進行により余命幾許も無いと思われる人が「どうすれば元通りになりますか?」と聞いてくることがあります。どう答えるかは状況によりけりですが、少なくとも患者様自身は何かしら特別な努力すれば若い頃のように飛んだり跳ねたりできるようになると心のどこかで信じているか、そういう奇跡を願っているのです。残り少ない時間を実現しない夢を叶える努力に費やさせるよりは、現在の状態で出来ることを心残りの無いようにさせるのが良いと思いますが、最終的にどうするのかは患者様自身の意志によります。病状を説明して考えてもらう事になります。  老いと病と死に抵抗しようとするのは生物としては自然なことです。しかしながら、老いと病と死を覆そうと努力する人はしばしば詐欺に引っかかります。本人も見守る側も注意しなければなりません。老病死に苦しむ人に自分なら奇跡を起こせますと嘘をつき多額の金品を巻き上げていく詐欺師達の汚れた心がいつか浄化されるように祈ります。  また、家族が患者様にとにかく死ぬ気で頑張るように勧めることがあります。頑張ってどうにかなる状態の人ならばいいのですが、医学的に見て努力してもどうにもならない状態の人や、すでに十分に頑張っている人に、お前の状態が悪いのは努力が足りないからだと言うのはなんとも残酷なことです。家族としても元に戻って欲しいという気持ちで言っているのがなお辛いです。  必要以上に老け込む必要はな

オミクロンに関する一部の世論

 新型コロナウイルスの新たなに見つかった変異がオミクロンという呼称になった。この事についてまたも憶測であれこれ言う人がいる。  発見から日が浅く詳しい情報がまとめられるのはこれからなのに、ただの風邪だ的な事を断言する人が多いのには日本の教育レベルの低さに暗澹たる気持ちになる。  競馬の結果予想くらいにいい加減な事を断言する彼らの度胸だけは褒めてあげていいが、控え目に言ってアホだ。確固たるエビデンスに基づかない単なる願望は、予言として当たっても科学的な価値は無い。そんな無根拠な予測で、多数の命に関わる政策をどうこうしろなどと自信たっぷりにありがたい御提言をなさる元政府関係者様などは迷惑なだけでなく、陰謀論的な世論を育てる危険分子と言っても過言では無い。  もっとも彼らが言うには世界中にこれだけの被害をもたらしたコロナ自体がただの風邪なのだから、オミクロンの脅威の程度が本当はどうであっても仲間内ではただの風邪という認識になろう。結果、自分たちの妄想が正しいとさらに確信するに至ると思われる。  こういうリテラシーの低い人達が「医療関係者はただの風邪であるオミクロンを危険だと煽ってキャッキャと喜んでいる」などという意味不明の誹謗をしているが、こちとら胃を痛めながら警戒中だ。そしてこんな馬鹿な事を考え、発言し、公衆衛生に有害な行動を取る一部の国民も我々医療者が守るべき対象だ。  反ワクチン活動家もまだぼちぼちいる。ワクチンに関する正しいリスク・ベネフィットを理解しても感情的にワクチンを忌避するならまだ理解可能だが、無茶苦茶な陰謀論を根拠に公衆衛生を脅かす言動を取る彼らも、医療者は守らねばならない。  この2年近くで日頃の自衛官の苦労が少し分かった。彼らは過激派やそのシンパから罵詈雑言を浴び危険な嫌がらせを受けつつも、そんな国民も守るべき対象だとジッと堪えている。その強い忍辱の心は敬意に値する。