健康詐欺

 個人的には自分が担当する患者様が、法外な値段でなく健康に害がない程度のサプリメントや健康食品や健康グッズを使うのを無理には止めない主義だ。もちろん特別な効果があると思っている訳ではなく、それで本人が安心するのならそれはそれで良いからだ。ただし、サプリメント等の効果は食品以上のものでは無いことや過剰摂取の危険性などは説明してるし、健康グッズに関しては正直に気休め程度であることと適正に使用しないと危険であることも説明している。

 以前は怪しい電気治療機を何百万円もの金額で買わされたり、核酸飲料なるおよそ殆どの食べ物に含まれているであろう成分の飲み物を何万円もの高値で買わされていた患者様もおり、そういうものに関しては、無害そうでも詐欺ですよと教えてきた。しかし、敵もさるもの、近年では微妙に高い程度の金額設定が増えている。本人が騙されたと分かっても、被害金額がそこまで高くなければ家族にバレにくく、本人も恥ずかしがって黙っていることが多く、結果として詐欺師が訴えられるリスクが減る。薄利多売を目指しているようだ。

 こうした詐欺被害の多くは認知機能に障害を来している独居老人だ。認知機能の低下で騙されやすくなっているのもあるが、ずっと孤独に耐えかねていたところに訪問販売員を装った詐欺師が親切そうな顔で話を聞いてくれるのだから情に絆される面もある。こういう事態を避けるためにも、家族の支援が期待できない患者様には公的な介護サービスの積極利用を勧めているがいやがられることもある。また、公的サービスを利用してもデイサービスなどで詐欺商品が口コミの蔓延をきたす場合もあり注意が必要だ。

 先日、私の担当するごく初期のアルツハイマー型認知症の患者様(仮にAさんとしておく)に次のような話があった。Aさんにもアルツハイマー型認知症の患者様にスタンダードに投与されるドネペジルという薬を処方していた。ドネペジルは言うなれば認知症の進行を緩やかにする薬であり、内服を続ければ認知症が治るようなものではない。それゆえに、初期からの投与が重要となる。認知機能の低下が進行し生活や生命の維持にも重大な問題が発生するレベルまで病状が悪化してから投与しても意味はない。認知症患者の大半は高齢者であり、認知症の進行をある程度抑制できれば、寿命まで人間らしい生活も可能となりうる。そんなAさんは健康食品の訪問販売を受けており、時々これは飲んでいいのかなどと尋ねられることがあった。例えば肝油が一ヶ月当たり1万円近くもするのは高いと思われたので、何かしらの劇的な効果は期待できないことも加えて説明していた。そんなある日の外来で、Aさんから健康食品の販売員から「ドネペジルが何の薬なのか知っているのですか!?あなたのようなしっかりした人がのむ薬ではない!」と言われ内服をやめさせられ、代わりにイチョウ葉エキスの錠剤を5千円ほどで買わされていた。なるほど、Aさんの認知機能がもう少し早く悪化してくれれば寿命までに売りつけることが出来る詐欺商品も増えるだろうから詐欺師としては妥当な判断なのかも知れない。だが人倫には反している。Aさんには相手の連絡先を尋ねてみたが教えてはくれなかった。心理的にも取り込まれつつあるようだ。迂闊に刺激しないように行政や別居の家族らと相談しつつ対応していくしかない。

 皆様も遠方に高齢の親などがいる場合はまめに連絡を入れてあげてください。寂しさが紛れるだけでも詐欺の被害は減ります。人の絆は詐欺への防壁です。

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