刑法に抵触しない悪への対処法

 世の中には刑法に抵触しない悪がある。近年で最も身近な例を言えば、ワクチンに関する陰謀論だ。新型コロナウイルスワクチンやHPVワクチンなどに関する(打つと死ぬとか不妊になるとか謎の機械が埋め込まれるとかの)明らかな誤情報を宣伝すること自体は、言論の自由の名の下に取り締まりの対象ではない。だが、これらの情報を信じた為に死んでしまった人は多い。これは、情報が正しいかどうかを見極める力に劣った人達を狙った詐欺であり、信じた人は命の危険と引き換えに様々な詐欺的商品を買わされる危険も増す。また、こうした集団の存在は感染の拡大を招くので公衆衛生にとっても脅威だ。個人的にはこうした詐欺師やその信者及びこれらの危険な誤情報を流布する報道機関や出版社は取り締まるべきだと思っているが、法的整備がなされていない。もし、私が彼らを私的に逮捕拘禁すれば、刑法により処罰されるのは私の方だ。だから、現状を変える為には私刑を執行することではなく、法整備を目指して政治に働きかけるのが合法的で正当な手段ということになる。

 だが、法的な整備を目指したロビー活動は遅々として進まない。ご存知の通り、国会議員にも詐欺療法を信じて擁護する人達がいるからだ。最近、こうした詐欺師たちの横暴に痺れを切らして、正しい医師らが詐欺師たちに現行法で対処できる範囲で抵抗しようとする動きが見られる。素晴らしいことだ。頑張ってほしいと思う。

 それを踏まえた上で、少し考えた方がいいと思うのは、先述のワクチン陰謀論など多くの死者を生む公衆衛生上の極めて深刻な脅威に対しては全力で叩きに行って良いが、直接的にも副次的にも死亡や健康被害が出ることがほぼ無いが宣伝されている効果も無いような医療詐欺に関しては、それを指摘して相手が謝罪し詐欺的治療を撤回したのならば、それ以上叩かなくてもいいのでは無いかということだ。日本の刑法だって教育刑が基本であり、死刑以外は吊し上げや見せしめの効果は期待されていないはずだ。既に謝罪した人を吊し上げて、次はお前だぞと見せしめにすればなるほど詐欺は減るかも知れない。しかし、保険外の処方を詐欺としてではなく効果があると信じてする医師も多く、彼らに恐怖を与えるより、間違いを指摘してあげた方が平和的ではなかろうかと思う。

 語弊を恐れずに言えば、日本の医師の中で保健適応外の処方をした事が無い人は一体どれくらいいるだろうか?最近では医学的に妥当な適応外治療は、割とすぐ追加で適応内になることが増えたものの、全く適応外処方をしていない医師がいたら御目にかかってみたいものだ。例えば、若い先生は知らないかもしれないが、脳卒中急性期で脳圧の亢進が疑われる患者へのニカルジピン投与は医学的には妥当だが最近まで禁忌だった(まあ使ってたしツッコミも入らなかったけど)。逆に医学的に妥当でない感染症へのセフカペン内服などは今でも保健適応内の治療であり、体感的にも開業の医院や歯科医院などでの処方が目立つ。大した儲けにはならないのでこれは医師や歯科医師の知識のアップデートの問題で詐欺では無いだろう。患者にとっては詐欺でも無知でも変わりはないが、なかなかに難しい。

 私が法律を整備すべきだと言うのは、そもそも制度として間違った治療を禁止していれば医療詐欺は自ずと減るだろうからだ。現行法では医療詐欺を行なってもほとんど逮捕されないのは流石に問題だ。

 これは、医療問題だけでなく、刑法に抵触しない詐欺的行為や社会的な悪は、法律の整備や法に基づく対応が第一であり、緊急的に業界や有志で対応する時も謝罪している個人を吊し上げるような行為は、恐怖による支配でありジャコバン派と変わりはない。

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