写経用の短いお経

 前々回、少し写経のおすすめをしましたが、一般的に写経に最もよく使われているお経はおそらく般若心経でしょう。では、写経初心者の方が実際に般若心経を写経した場合、意外と長く集中力が続かないと感じる方が多いかと思います。

 そこで今回は初心者でも写経しやすいお経などを紹介していきます。なお、お経の読みは宗派で違いもあるので各自所属宗派のものもご確認ください。訳もバリエーションがあり、あくまでも一例とご理解ください。


1.開経偈
 無上甚深微妙法(むじょうじんじんみみょうほう)
 百千万劫難遭遇(ひゃくせんまんごうなんそうぐう)
 我今見聞得受持(がこんけんもんとくじゅじ)
 願解如来真実義(がんげにょらいしんじつぎ)

 現代語訳:この上なく深く妙なる仏法は、(何度も転生を繰り返した結果の)永遠とも思える時間を過ごしても出会うことは難しい、だが今わたしはこの法を知り受け取ることが出来た、ぜひ仏の真実の教えを理解させていただきたい。

 経典を読む前に唱えられる偈文(詩)ですが、単なるお勤めの始めにある定型句ではありません。開経偈は、どんなに修行や徳をつんだ高僧や在家信者であっても、ぜひ仏の真実の教えを理解させていただきたいと唱える事になります。つまり、日頃から仏教の教えに従っている自分が何か偉くなったような思い上がりをお勤めの前にただす効果もあるのです。謙虚さと、ありがたい教えに出会えた喜びを再確認させて頂く偈文なのです。


2.四弘誓願
 衆生無辺誓願度(しゅじょうむへんせいがんど)
 煩悩無尽誓願断(ぼんのうむじんせいがんだん)
 法門無量誓願学(ほうもんむりょうせいがんがく)
 仏道無上誓願成(ぶつどうむじょうせいがんじょう)

 現代語訳:果てしなくいる衆生を全て救う事を誓う、尽きることのない煩悩を全て断ち切る事を誓う、限りない仏法を全て学ぶことを誓う、この上ない悟りを必ず成し遂げる事を誓う、

 これは大乗仏教の菩薩道に入る人がはじめに立てる四つの誓いです。上記は禅宗系のものです。語感的に好きなのでこちらを採用しましたが、他の宗派のも概ね同じ意味です。


3.懺悔文
 我昔所造諸悪業(がしゃくしょぞうしょあくごう)
 皆由無始貪瞋癡(かいゆむしとんじんち)
 従身語意之所生(じゅうしんごいししょしょう)
 一切我今皆懺悔(いっさいがこんかいさんげ)

 現代語訳:私達が昔からつくってきた悪い業は、みな貪りと怒りと無知に由来しこの身と言葉と心によってつくられてきました。これら一切を私達は今、懺悔します。

 以前に終末期医療の立場から紹介したこともある懺悔文です。https://www.angodo.com/2020/03/blog-post_3.html
 世の中に懺悔することがない人などいません。イライラしたとき懺悔文を唱えたり書いたりして、我が身に問題が無かったか省みるのも大切です。
 また、たとえ正しいことでも、表現の方法によっては悪にもなります。もちろん正しいことをするのを止める必要はありません。正しい事を口実に自分の怒りを発露させようとしていないかにも気を配りましょう。それを知らないのは無知であり、勝利を貪り利益を得ようとしては、正しい行動も悪になりうるのです。


4.七仏通戒偈
 諸悪莫作(しょあくまくさ)
 衆善奉行(しゅうぜんぶぎょう)
 自浄其意(じじょうごい)
 是諸仏教(ぜしょぶつきょう)

現代語訳:諸々の悪は行わず、諸々の善を行い、自らの心を清くする、これが諸仏の教えである

 以前に「ビハーラ医療に活かす六波羅蜜、その3」で紹介したこともある七仏通戒偈は、お釈迦様を含めて過去にいた七人の仏様に共通した教えとされています。https://www.angodo.com/2020/03/3.html


5.(延命)十句観音経
 觀世音 (かんぜおん)
 南無佛 (なむぶつ)
 與佛有因 (よぶつういん)
 與佛有縁 (よぶつうえん)
 佛法僧縁 (ぶっぽうそうえん)
 常樂我淨 (じょうらくがじょう)
 朝念觀世音 (ちょうねんかんぜおん)
 暮念觀世音 (ぼうねんかんぜおん)
 念念從心起 (ねんねんじゅうしんき)
 念念不離心 (ねんねんふりしん)

 現代語訳(色んな訳がありますが、かなりのバリエーションがあります、俺の考えと違う!と思われてもご笑納ください。):観音様、私は仏に帰依します。仏様から悟りに至る因と縁を与えられ、仏と法と仲間たちの縁によって成仏することが出来ます。朝に夕に観音様を念じます。この念は心から起き離れることはありません。

 観音菩薩は慈悲の心をもって衆生を救う大菩薩です。成仏できる状態にあるのに、衆生を救うために菩薩の位にとどまっているとされます。この観音菩薩に頼み、仏道の成就を助けてもらうとする経ですが、観音信仰とあいまって様々な奇跡を起こしてきたとの伝説があります。何か問題があって自分に出来る事はしつくして不安が強い時に、ひたすらに祈ってみるのもいいでしょう。先日、私も祈らさせて頂きました。https://www.angodo.com/2020/03/blog-post_31.html


6.その他
 その他、お題目やお念仏や禅語など何か心に響く言葉を書いても気分を落ち着けて祈るのに役立ちます。


 書いたお経はご自身のお寺が引き受けてくれるのならば納めても良いですし、宗派的に問題なければ経筒に入れてお仏壇の棚などにお供えしたりしてもいいですね。いずれにしても大切に扱いましょう。平安時代から室町時代頃には埋納した写経をまつる経塚と呼ばれる塚が多く作られました。皆さんのご近所にもあるかと思います。見かけられた際は先人の祈りに思いを馳せてみてください。

 それではまた、合掌。

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