イデオロギーによる陰謀論の嗜好性
世に陰謀論の種は尽きない。一つ一つ反論している各分野の専門家の努力は陰謀論を滅ぼすというのが目的であれば恐らく無駄だろうが、騙される人を減らすことには貢献していると思われる。終わりが無い作業に取り組む根性は並大抵のことではない。まったく頭が下がる。
ところで正確な統計調査をした訳ではないが、陰謀論にはイデオロギーによる嗜好があるように見える。右派の陰謀論者にはコロナのデマを流したりとか地球温暖化は嘘だとか言う人が多く、左派の陰謀論者には放射能や農薬に関するデマを吹聴したり世界中の天災をアメリカ軍の秘密兵器の仕業だなどと言ったりする。こうしたイデオロギーと陰謀論の組み合わせが一致しない人も当然いるが、ランダムに振り分けられたとは思えないくらいに偏っている。本日はこうした傾向はなぜ生まれるのか考えることで、陰謀論を排除する一助としたい。
まず、左派が放射能を極端に嫌う陰謀論に取り憑かれやすい理由だがおよそ二つに大別される。一つは実は放射能を嫌いじゃない人達だ。つまりイデオロギー的に嫌いな国の原子力行政を妨害したいが為のエセ活動家だ。実際にそんなのがいるのかという疑問をお持ちの人もいるだろうが、この手の人から中国の核兵器は帝国主義を砕く正義の核兵器だとの話を聞かされた事がある小生がみるに存外に多い。彼らは中国が引き起こした放射能汚染に関しては決して非難しないから分かりやすい。もう一つが普通に汚染を気にしている人達だが、左派独特のバイアスとして原子力を扱う国家や企業に強い不信感を持っている。両者とも極端に薄い放射能だろうがどんなに低線量だろうが、恐ろしい被害がでるかの様に吹聴するのが特徴だ。逆に右派の中には科学的には致死的な線量でも逆に健康になるなどと言う人がいるのは対象的だ。日本の右派の放射能好きは核武装をしたいが故に放射能の危険性を過小評価したいというバイアスがはたらいたものだろう。
左派陰謀論者の農薬嫌いも放射能嫌いと同様だ。農薬の発達により、病害虫による作物や人間への被害が軽減し収穫量も増えた。農薬にはまさに科学の勝利といっても良い歴史があるのだが、その発展の過程では中毒などによる残念な事故も起きてきた。こうした経験から安全対策は様々に施され今でも進歩を続けている。ただ、左派の陰謀論者は無害なレベルまで農薬が除去されていても、残留農薬による健康被害がどうのこうのと訴えかける。そんなもので被害が出るならホメオパシーに薬効があるというレベルの愚かしい発想だが、基本的にこれも農薬メーカーなどの大企業に対する嫌悪感によるバイアスだろう。あとリベラル特有の自然崇拝主義の影響もあるかも知れない。自然に敬意を示すのはそうあるべきだと思うが、自然な状態こそがあらゆる人為的な工夫を凌駕して素晴らしいとする考えは偏見だと言わざるを得ない。
天災が、例えば東日本大震災がアメリカ軍の秘密兵器の仕業だなどという左派陰謀論者も存外にいる。もうどこから突っ込めばいいのか分からないが、そんな超科学を米軍が保有しているならとっくに世界は統一されているだろう。
一方、右派のコロナ陰謀論だが、これはまさにイデオロギーの賜物といえる。コロナに関する種々の陰謀論はアメリカのトランプ前大統領の支持者Qアノンが流行らせたものと言え、彼らと連帯している日本の右派というかJアノンとも揶揄される一派が早々にこれに乗っかっていた事を考えると、日本の左派とは相性が悪いのは当然だ。日本の左派は大企業を嫌うが、アメリカの右派は左派のインテリが運営する大企業が同じく嫌いであり、製薬会社や個人ではビル・ゲイツなどがその攻撃の対象となっている。ただ日本の左派の一部も農薬陰謀論と同様の大企業不信からワクチンの副作用を過剰に心配してデマを拡げるという捻じれ現象が生じているのも興味深い。
右派陰謀論者の地球温暖化懐疑説も同様だ。アメリカのクリントン民主党政権時代1993〜2001年に渡り副大統領を努めたアル・ゴアの「不都合な真実」という環境問題を扱った映画が2006年に大ヒットした。アメリカの民主党などリベラル側により多い一定の高等教育を施された知識人は環境問題の深刻さに早くから気がついていた。だが、環境問題解決のためにかかるコストは高等教育を受けた支配層ではく、彼らから虐げられ搾取されている白人労働者に転嫁されるのは目に見えていた。もちろん、労働者たちは反対する。だが、反対する時に地球なんてどうなっても知らんから俺らの利益を守れとは言いにくい。そこで飛びつくのが環境問題そのものが嘘であるという陰謀論だ。白人労働者からの支持が厚い共和党や、環境問題で損をする企業やその御用学者らもこれに同調する。日本にもそれが輸入されるという流れだ。
コロナ陰謀論も地球温暖化懐疑論もそれがアメリカで左派を攻撃する動きと重なっていたら日本では右派が支持しているのだと言える。だが、国内状況として現政権がコロナ対策の不備で左派から攻撃を受けているのをみても、右派がコロナ陰謀論に飛びつきたくなる心情はあるだろう。もし、コロナが流行したのが日本の民主党政権下であれば、陰謀論の嗜好は左右逆になっていたかも知れない。温暖化など環境問題に関しても、日本の左派はこれを彼らが嫌いな大企業を攻撃するダシに使っているので、右派の反感は単にアメリカの右派からの輸入にとどまらず国内の左派に対抗する道具として温暖化懐疑論を練り上げている。
だが、左右の陰謀論者がそのイデオロギー的にそうであって欲しいという妄想を積み上げたところで科学的な事実は微塵も揺るがない。陰謀論の流布は人類に対する敵対行為なので即刻やめていただきたいものだ。
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