プラセボとノセボとワクチンなどなど

 日本でもようやく新型コロナウイルスのワクチン接種も開始されましたが、巷ではいわゆるワクチン陰謀論的な話もしばしば聞かれます。一方で、フードファディズムの回でも紹介したような、何とかという食品が免疫力を高めてウイルスに効くとか、比較的容易に入手可能な何とかという薬が実はコロナに効くんだなとどいう与太話も時々みかけます。今日はこういう現象に関わるプラセボ効果とノセボ効果についてお話します。

 プラセボ効果については有名ですが、簡単に言うとニセの薬でも飲めば効いた気がするというものです。もちろんニセの薬では癌などは治りませんが、不眠症などには存外に効果を発揮します。

 こうした思い込みから表れる効果を排除するために、新しい薬が発売される前の治験では、薬とニセの薬を患者にも医者にも分からないように無作為に割り振ってその効果を判定します。そして、ニセの薬よりも統計的に意味のあるほど効果があった薬が販売を認められるのです。ただ、命に関わるような病気では治験であってもニセの薬を投与するのに倫理的な問題点もあり、先発の既に効果があると分かっている薬との比較もよく行われます。極端に効果に差が出た場合は試験の途中で中止となる場合もあります。

 前記の様に睡眠薬などは意外とニセの薬でも効果があり、現在も販売されている某睡眠薬の治験において、治療開始前は眠るまでに平均で約77分かかっていた患者さんたちが、その薬を飲むと2週間後には眠るまで平均で約57分と改善したのですが、ニセの薬を飲んだ人たちも平均で約60分まで短縮しており一定の効果をみとめています。この効果自体は医療的にも利用は可能なのですが、同時にニセの薬を使った詐欺行為でその被害者が熱烈に詐欺師やニセの薬を支持する場合があるという奇妙な現象を生み出す原因ともなっています。

 一方のノセボ効果とは本来はニセの薬で有害な事象が出る事を言いますが、処方された薬に対する恐怖や不安から気分が悪くなってみたり、たまたま別の原因で起きた有害事象を薬のせいだと思いこんだりする場合にも使われる用語です。先に説明した治験で人に無害なはずのニセの薬を飲んでも下痢や吐き気など生じる事があります。また臨床での体験例として、前の主治医と喧嘩して病院をかわってきたとある病気の患者さまに、検査日程の都合上一旦はメーカーが違うだけの前と同じ睡眠薬も含む処方をしたところ、次の来院時によく眠れるよになったと感謝された事があります。この場合、事前に同じ薬を出す旨は伝えたのですが、患者さまは別の薬が処方されたと思われたようです。効果としてはかわるわけも無いのですが、前主治医に対する不満から以前の処方にノセボ効果がかかっていた一例かと思われます。主治医と患者も仲が良いほうが治療効果もあがるのだろうと思います。

 さて、ワクチンに関してはどうでしょうか?何か大丈夫そうな気がするというような精神安定的なプラセボ効果はあるかも知れませんし、不安が少ないほうが免疫的には有利との意見はあるものの不安状態でも免疫は機能しますので本来の効果に対する精神的な要素は限定的でしょう。逆にプラセボ効果により本来は早期対応すべき副作用を軽視してしまう恐れもありプラセボ効果も必ずしも有益でない場合があります。ノセボ効果については実はワクチンとは無関係の有害事象を過大評価して2回目の接種をやめてしまえばそちらの方が有害となる恐れもあります。

 様々なワクチンで因果関係が明らかでなく頻度的にも珍しいが重い有害事象が起きた時に、マスコミがそれを副作用だと大々的に宣伝して、結局そのワクチンがほとんど使われなくなることがあります。後々精査してその有害事象とワクチンが無関係だったと分かっても、副作用だと騒いでた時のように大々的には周知してくれず、新聞の端にこっそりと書かれる程度です。ワクチンや薬はプラセボ効果やノセボ効果を除いた適正な効果と危険性を周知すべきであり、過度の期待も不安も有害です。正しい情報に基づいて個々人がワクチンや薬を使用するかしないかを考えられるように助力するのがマスコミの使命であり公益に資するものです。マスコミやインフルエンサーの方々はその点を留意していただきたいものです。

コメント

このブログの人気の投稿

妙好人、浅原才市の詩

現代中国の仏教

懐中名号