リプレイスメント陰謀論
5月14日にアメリカはニューヨーク州バッファローで起きた黒人を狙った銃撃事件で、犯人のペイトン・ゲンドロン(18)はリプレイスメント理論あるいはグレート・リプレイスメントと呼ばれる陰謀論を信じていたという。
この陰謀論は白人社会のエリートが多産な有色人種をその国家に大量導入し、かつ白人の出生率を下げるように仕向けて、最終的に白人を絶滅させようとしているというものだ。全く荒唐無稽なものであり、こんな馬鹿げたデマで殺されてしまった10人の被害者には同情を禁じえない。
この陰謀論はフランスのルノー・カミュにより2010年頃より唱えられており、政府が自分の言いなりにならない国民を入れ替える為に行われる陰謀だとしている。更に、グローバリズムによって、文化や民族や国家から分離された取替られる人間が増やされているのだともいう。この考え方では移民は先住白人を絶滅させに来ている侵略者であり、リプレイスメント陰謀論はレイシストに広く受け入れられていった。
このナラティブはユダヤ陰謀論の焼き直しとも言える。社会の中の弱者を実は強大な敵だとして彼らへの差別の口実とするものだ。そもそも、国のエリートが言うことを聞く国民に入れ替えるのが目的だというが、自分らと考えの近い民族を異民族に入れ替えてすんなり言うことを聞いてくれる訳がない。だから文化や民族や国家から分離された人間にするんだという反論も無茶苦茶だ。実際に、欧米に移民している有色人種が各々の文化を捨てているかという話で、明らかにNOだ。少しは薄まるかも知れないが、アメリカに移民したムスリムがいきなり無神論者になったりはしない。
近年、民族浄化が実際に目指された例としては中国の東トルキスタン侵略がある。だが、あれは明らかに軍事侵攻した上で、強権的に支配し虐殺、強制移住、断種、大量移民、絶滅収容所の運営などを行った結果であり力技だ。しかも、これだけやっても民族浄化は達成できず、今でも激しい抵抗が世界中で続いている。リプレイスメント陰謀論が説くようなまどろっこしい手段では民族浄化なんて出来ようはずがない。百歩譲って仮にそれを実行可能な程の力がエリートたちにあるのなら端から力技でやった方が早い。
リプレイスメント陰謀論の類型は山程ある。陰謀論者どもは差別を受けている社会的弱者を指してこう言うのだ「彼らは被害者ぶっているが実は強大な悪の組織の手先だったのだ!彼らは自分たちを滅ぼそうとしている!戦え!自分や仲間たちが殺される前に!」これがテンプレだ。実に馬鹿馬鹿しい。馬鹿馬鹿しいがそんな馬鹿馬鹿しい話を信じて大量殺人をする馬鹿もいる。陰謀論は人を殺しうる凶悪なミームであり、ウイルス同様の対策が必要だろう。
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