断言

 この世に絶対に正しい事は何もない。これは科学や法学を含まない狭義の哲学としては妥当な考え方だろう。だが、現実の社会的な行動としては、十分な証拠があって確からしいことは断言して構わない。
 
 地震の後に気象庁が発表する津波の予想は、まれに外れることもあるが基本的には間違いない。この場合、津波が来るから逃げろと勧めるのは政治的にも正しいし、津波が来ると判断するに足る十分な証拠があるのだから科学的にも正しい。絶対でないからと津波が来ると言うのは良くないとか、逃げるか逃げないかを判断するのは市民の権利であり国家権力により強制されるのは自由の侵害だなどと言う人はほぼいない。これは、ほぼ当たる予測であり、しかも甚大な被害をもたらす現象に関する事だからだ。だからもし、予測の的中率が低かったり、大した被害をもたらさない現象に関する予測で同じことをすれば批判する人は増えていく。

 だが、同じく確からしい事でも、直接的に見聞きした経験が無かったり実感することが難しい脅威に対しては人は往々にしてその危険性を過小評価しがちだ。新型コロナウイルス感染症や地球温暖化に関して陰謀論が後を絶たないのはこの影響だろう。

 新型コロナウイルス感染の拡大防止の為には、ワクチン接種率を上げて通常の感染防御にも努めるのが、現在選択しうる最善手だと断言出来る。だが、ワクチンも防御対策も不要だという陰謀論者のなんと多いことか。日本は完璧では無いまでも医療現場や行政の努力により、他国と比べればその被害を抑えられている方だ。それでも残念なことに18000人を越す人が亡くなった。この結果だけをみて、この程度の被害ならワクチンもマスクも手洗いも含めて努力は不要だとか言う人がいるが、胃が痛くなるような努力の結果が現在の状況であり、無策ならもっとひどいことになっていたのは明らかだ。だいたい、他国より少ないとは言っても年率で交通事故死の3倍ほど死んでいるのに、この程度といえるあたりが命を軽んじているとしか思えない。

 地球温暖化についても然りだ。近年の地球気温の上昇が人間が排出する二酸化炭素を主な原因とするのは間違いない。より巨大な環境因子である、太陽活動などの影響で地球は寒冷化するのだから二酸化炭素の制限など不要だと言う人もいるが、そんなものは寒冷化したら二酸化炭素を増やせば良いだけだ。現在の技術では二酸化炭素を増やすのは容易いが、減らすのは至難の業だ。科学的に見れば事態はかなり深刻だ。楽観主義で何もしない人達も問題だが、この事態に冷静さを失い反対勢力に明確な殺意を持っている環境テロリスト達はさらに厄介だ。

 忘れてはいけない。実社会において明らかなことに対し哲学的な意味での絶対は無いという論法をねじ込んでくる人間は概ね詐欺師だ。例えばホメオパシーを否定すると詐欺師どもは絶対無いという姿勢は科学的ではないとかなんとか四の五の言うが、ホメオパシーが効くことなど絶対に無い。悔しかったら二重盲検で結果を出せと言いたい。

 正しいことは臆せず断言すべきだ。そうでないとこの世はたやすく妄想に覆われる。

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