八功徳水
八功徳水といえば極楽浄土の水という話が有名だが、他にも倶舎論にその記載がある。
倶舎論に説かれる古代の世界観ではこの世の中央には須弥山というとても高い山がありその周囲を囲うような山があり須弥山との間に海がある。その山を更に囲う山が合計七つあってそれぞれの間に海がある。七つ目の山の外側が我々の知る塩水の海である外海で、須弥山に近い七つの海は内海と呼ばれ、その水は、甘く、冷たく、軟らかく(おいしく)、胃に軽く、きれいで、腐らず、飲んでも喉を傷めず、飲んでもお腹をくださない、という八つの優れた点があるから八功徳水と呼ばれていた。
阿毘達磨倶舎論の成立は4〜5世紀頃とされ、浄土教経典が成立した2世紀より新しいが、倶舎論の更に元ネタとなる発智論は2世紀前半の成立とみられ、また、倶舎論は浄土教などの大乗仏教が成立する以前からの部派仏教の教理のまとめであることを考えれば、八功徳水のオリジナルは浄土教以前に遡るとみていいだろう。お釈迦様が誕生された時にも八功徳水が湧き出てお母様のマーヤ夫人が身を清めるのに使ったとする言い伝えもある。安全な水の確保に難渋していた古代インド人のとっての理想的な水が八功徳水の伝説として残っているのかも知れない。
ちなみに浄土教の八功徳水は、浄く澄んでいて、清く冷たく、甘美であり、軽く軟らかく、潤沢にあり、おだやかで、飲むと飢えと病を癒し、飲んだ者の心身を健やかに育てるものとされ、倶舎論の八功徳水と若干効能が違い癒やしの効果が付与されている。浄土真宗で仏壇にお水をお供えしないのは、極楽浄土には潤沢にすごい水があるので娑婆の普通の水なんて供えられませんという発想らしい。
仏教におけるこうした水へのこだわりは、安全で潤沢な水の確保が大変であったか先人たちの苦労が生み出したものだろう。しっかり消毒されたきれいな水が蛇口をひねるだけで飲めるようにした現代科学とそれを生み出した人々の縁の積み重ねには感謝するしかない。こうした恵まれた環境に慣れきっているせいか、時々、山野で沢の水を直接飲む人がいるが、寄生虫などに汚染されている可能性があるのでやめた方がいい。どうしても必要なら濾過して煮沸してからにするべきだ。エキノコックスや、海外では恐ろしい住血吸虫もいる、各種の細菌やカビも油断ならない。安全第一で生きてまいりましょう。
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