習近平の共同富裕

 このところ、中国の習近平国家主席が主張している共同富裕とは富裕層の財産の再分配を半ば強制するものだ。自由主義諸国では税金による再分配や富裕層の慈善活動などにより再分配がなされるが、前者は法の調整が必要で、後者はあくまでも富豪の自由意志でされるものだ。

 もちろん中国にも税金による再分配システムは存在するし、習近平の唱える共同富裕は建前上は独裁者の単なる希望に過ぎない。だが、独裁者に睨まれれば商売のみならず一族の生存から危うくなる中国で習近平の意向への忖度は事実上の義務といえる。自由主義諸国で同じことをすれば、企業が海外へ流出するだけだが、独裁国ではそれも出来ない。

 そして、習近平の命令でお金持ちが財産を吐き出し貧困層が救われれば、助かった人々の目には習近平は救世主にもうつるだろう。これは独裁者にとっては実にうまい手だ。そもそも、極端な格差はそれを生み出した政治の失敗なのだが、それに対する弱者の恨みは富裕層に引き受けさせ、本来は責任を取るべき為政者は感謝される。税制をいじっても同様の効果は見込めるが、演出としては独裁者の鶴の一声で決まった方が劇的だ。

 また、様々な競争に勝利した富裕層をあまりいじめれば技術革新などが遅れるのではとの懸念も囁かれるが、中国の貧困から中流の人口は余裕で10億人を超える。彼らが大富豪とまでは行かなくても少しいい暮らしがしたいとして学び働けば国家全体の技術の進歩が今よりも遅れる事はそうそう無いだろう。格差の是正は人材の有効活用に繋がり国力増強にも寄与する。

 つまり、習近平の共同富裕政策は、自身の独裁を維持し、力をつけてきた富裕層の力を削ぎ、かつ国力を増すという、独裁者にとっては良いアイデアといえる。一方で、弾圧されている諸民族や周辺国にとっては脅威だ。もっとも、習近平も敵は多いのでこの策が実際にうまくいくかは分からないが、一部の右翼が大言壮語するほどに習近平は弱くない。本気で戦う気があるのなら、敵についての冷静な分析を怠らぬ事だ。

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