羊の歩み

 大般涅槃経第三十八に如牽牛羊詣於屠所とあります。「牛や羊が引かれて屠殺所に行くように」という意味です。この言葉が元となり、人の死は避けられず、しかも刻々と寿命は減っていっていることの例えとして羊の歩みという言葉があり、日本の古典文学でもしばしば羊は登場します。

 人は、仕事をしていても、遊んでいても、寝ていても、とどまること無く死の瞬間は近づいてきています。貴重な時間をなるべく有意義に使いたいものです。

 ところで、魏志倭人伝によると元々は日本に羊はいなかったそうです。その後、少数は輸入されたりもしましたが、飛鳥時代や奈良時代の日本人にとって羊は大変めずらしい動物でした。しかも、平安時代以降はヤギと混同される事が多くなっていきます。十二支にも入っており先述のように古典にも引用され言葉としては人々に馴染み深い羊も、大昔の日本人には龍や虎のような何かよく知らない生き物だったのです。

 昔の日本人が羊の歩みの話に人生の儚さを感じていた際に、頭に浮かべる動物は時代や人によって様々であったと思われ、色んな羊たちが人々の命を見送っていったことでしょう。そう考えると儚いながらもちょっと楽しいですね。

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