大曼荼羅と観心本尊抄
日蓮宗の大曼荼羅は中央に特徴的な字体で「南無妙法蓮華経」の文字が踊り、周辺に多くの仏や菩薩や神の名前が散りばめられた独特なもので、他宗派の人にも印象深いご本尊です。
これは日蓮聖人の主著の一つ「観心本尊抄」に説かれている内容と関連があります。観心本尊抄とは、天台宗で悟りを開くための禅定として必要とされる摩訶止観の一念三千の瞑想を末法の人間にも適応できる様に信者に解説した手紙です。一念三千は全世界が心で心が全世界であるとする考えで、その全世界と同じである自己の心を観ることが観心です。
「観心本尊抄」の内容を要約すると一念三千の観心を実践出来ない末法の世の劣った人々を哀れんでお釈迦様が妙法蓮華経の五文字の中に一念三千の宝を包んで送り届けてくれたのだとするものです。よって南無妙法蓮華経を受持する者は、一念三千の観心を得るのです。
そして、この観心のために書かれたのが冒頭にお話しした大曼荼羅で、観心の本尊とされます。日蓮聖人が一念三千の観念世界を図顕されたものです。何よりも注目すべきは中央に書かれた南無妙法蓮華経であり教主であるお釈迦様すらその脇士となっています。日蓮宗では南無妙法蓮華経はお釈迦様をも作りだした仏種そのものということになります。特徴的な髭文字は南無妙法蓮華経の法以外の六文字が線を伸ばしており、万物が法の光に照らされている状態を示しています。大曼荼羅の中の諸尊の文字も似たような書体で書かれています。お釈迦様や法華経に出てくる多宝如来や地涌の菩薩(※1)などの名前の他に天照大神や八幡大菩薩の名前も入っています。
日蓮宗の信者がこの大曼荼羅に南無妙法蓮華経のお題目を唱えることで観心の修行になっているのです。
さて、この大曼荼羅の特殊な字体の南無妙法蓮華経は髭題目と呼ばれ、御首題という他宗でいうところの御朱印となる日蓮宗独自のものにも使われています。各寺院で書体に色んなバリエーションがあるのでなかなかに面白いですが注意が必要です。御首題は日蓮宗寺院専用の御首題帳にしか頂けない事が多いです。御首題とは別に御朱印を用意しているところもありますので、両方とも頂きたい場合は各寺院の取り決めに従ってお願いしてみてください。また日蓮宗には他宗を排撃する四箇格言(※2)の影響もあり、また、以前は日蓮宗の信徒以外に布施の授受を行わないとしていた事もあり、他宗派の人の参拝を嫌うこともあります。観光化している寺院では参拝自体は可能かと思いますが、事前に調べてからお参りすることをお勧めします。日蓮宗だけではなく仏教の御朱印やそれに類する物は意外と細かいローカルルールが多いので、お寺別か宗派別に御朱印帳(御首題帳)を作っておくのが無難かも知れません。その点、神社の御朱印はどこそこの御朱印があるからうちの神社からは御朱印を授与しないなどと言われることはまずありませんので楽です。本来の御朱印は納経の証であったので仏教の方がオリジナルなのでしょうが、結縁という視点では八百万の神の方が寛容なようです。
(※1)この世に法華経を広める使命をもった無数の地涌の菩薩のうち、その指導者的立場にいる四人の菩薩、すなわち上行菩薩、浄行菩薩、無辺行菩薩、安立行菩薩を四大菩薩と呼び、大曼荼羅にも釈尊と多宝如来に並んでその名が書かれています。なお上行菩薩が末法の世に現れた姿が日蓮聖人であるとされます。
(※2)日蓮宗の四箇格言とは「真言亡国、禅天魔、念仏無間、律国賊」です。要は真言宗や禅宗や浄土教や律宗などはケシカランと言うものです。ただけしらかんだけでなく、これらは法華経を誹謗している(と、日蓮は考えていた)から日蓮宗にとって滅ぼすべき敵でもあります。
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