大智度論と禁酒
お酒を飲んではならないとする不飲酒戒は仏教の初期からあり、昔から規制しないとお酒で道を踏み外す人が多かったのだろうと思われます。キリスト教では飲酒は禁止されていないものの好ましくないとの考えが主流で、イスラム教では明確に禁止されていますが、いずれの文化圏でもアルコール飲料の撲滅は出来ませんでした。有史前から作られてきたお酒の底力は強く、単に発酵させるだけではない製造工程が複雑な蒸留酒ですら3300年前のエジプトで作られており、人類の酒類にかける情熱には凄まじいものがあります。しかし、そのおかげで今回の感染症騒ぎでも消毒用アルコールはさほど不足せずに済んでおり、世の中なにが幸いするか分かりません。
さて、大乗仏教の祖とも言うべき龍樹菩薩の作とされる般若経の注釈書・辞典である「大智度論」の中にも飲酒の罪について書かれた項目があります。そこではお酒を次の三つに分類しています。すなわち、穀物から作る酒、果実から作る酒、薬草を混ぜて作る酒(乳から作る酒も含む)です。更に、乾燥したものと湿ったもの(飲料以外のアルコール含有の食物のことかと思われる)、澄んだ酒と濁った酒にも分類して、これら全ての摂取を禁止しています。
一言でお酒は飲むなと言えば済むものを細々と分類しているのは、恐らく当時も不飲酒戒に対して、薬草入りなら良いのでは?とか、馬乳酒はお酒に含まれますか?とか、ワインは酒じゃねーとかの意見や反論があったと思われ、龍樹も「やかましい全てダメだ」と言いたく一々分類したのかも知れません。
大智度論の飲酒の罪の項目では続けて、お酒は身体が冷えるのを防ぎ、健康に益して、気分も良くなるのになぜ飲んだらダメなのかとの質問が書かれており、それに対して答えて、酒の益は少なく害が多いから飲んではならない、酒は毒入りの美味しい汁のようなものだと書かれています。
日本では俗に空海が多少の飲酒を認めたとも言われていますが、空海の御遺告でも基本的には飲酒を禁じており、例外として病人の治療としての飲酒を認める「治病之人許塩酒」という文言があるのみです。
空海はお酒の薬効をいくらかは認めていたようですが、飲酒は肝臓や膵臓に悪いだけでなく、酔って転倒などの事故を増やします。冗談抜きで転倒が原因で死んだり寝たきりになる人は多いので気をつけましょう。適量の飲酒なら動脈硬化に良いとの意見もありますが、龍樹菩薩の言う通りに総じて害の方が多いと言えます。なぜか日本薬局方にはブドウ酒が食欲増進や不眠症の薬として収載されていますが、不眠症にアルコールはダメです、ガチで。写真は第三種医薬品のブドウ酒です。実物は見たことありません。話のネタでちょっと欲しい気もするけど味的には恐らく普通に安いワイン買った方がマシだと思います。それ以前に日本薬局方を改定して外した方がいいのではと思います。多分そんな売れていないし製薬会社も困りますまい。
ビールが美味しい季節が近づいてきていますが皆様飲酒はほどほどに。
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