地獄に鬼はいない
世親の唯識二十論に面白い話があります。地獄に落ちた人に苦しみを与える地獄の番人は存在しないというのです。地獄で罪人に責苦を与える者は一般的日本人のイメージでは獄卒の鬼な訳ですが、この鬼がもし地獄に生まれてその役割を負っているのならば、地獄に生まれるような悪いことをしてきたことになります。しかし、彼らは地獄に生まれても他人をいじめるばかりで本人(本鬼?)は責苦を受けず、地獄の業火に焼かれる事もないのだから、こうした地獄の番人は地獄に落ちた人が見る幻覚や妄想の類いだと言うのです。
地獄以外から鬼が派遣されて罪人をいたぶっている可能性もあるでしょうが、六道輪廻は因縁や縁起による法則のようなものと考えられていますから、何者かがそうなるように管理するという認識はおかしいのでしょう。日本では閻魔様が死者を裁いて、その部下の鬼達が地獄を管理しているというイメージが強いですが、古代ガンダーラ地方ではそうでは無かったのだと思われます。しかし、鬼が亡者の幻覚で無かった場合、彼らは殺伐とした環境でずーっと仕事をしている事になるのでなかなかブラックな労働環境です。そう考えると地獄の鬼がもし存在するのならば彼らも十分に責苦を受けている気がします。
ともあれ、地獄でなくても何かしら苦しい状況にあると、何も無いところに人の悪意を誤認したりもして、ますます状況が悪化する場合があります。まさに疑心暗鬼です。苦しいときこそ冷静さを保ちたいものです。一切皆苦の世の中は嫌なことも多いですけど、みんながみんな鬼のような人ではなく、人の苦しみを除こうとする菩薩のような人もたくさんいます。地獄にすら鬼はいないのなら、人の世にも鬼はおりますまい。なんくるないさぁ!
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