オフレッサー現象

 田中芳樹のスペースオペラ小説「銀河英雄伝説」に出てくるキャラクターにオフレッサーという軍人がいる。オフレッサーは人格的に難ありとの描かれ方をしていたが、上級大将の肩書を持っていた。このオフレッサー上級大将は、ある日の戦いで他の将軍らとともに対立していたこの物語の主人公の陣営に捕らえられる。ところが、この陣営の参謀の陰謀により、他の将軍らが処刑されたのにオフレッサーは無罪放免となる。敵陣営に帰還したオフレッサーは主人公陣営との内通を疑われ自分の味方から殺されてしまい、敵陣営は疑心暗鬼のるつぼと化し自滅していくこととなった。

 この話はもちろんフィクションだが、ここから得られる教訓は、日頃の信頼は大切だということ以上に、疑心暗鬼に陥った集団は脆いということだろう。

 史実でも例えば日本の戦国時代に浅井長政の家臣だった磯野員昌は、対立する織田家から磯野は織田方へ裏切ったという偽情報を流された。その偽情報を信じた浅井家は磯野を見捨てて程なく滅亡してしまった。

 現代でも恐ろしい敵に捕まっていた味方が予想外に早く解放された時に、解放された者が裏切ったのでは無いかと憶測が流れ味方の分裂の原因ともなる。もちろん、本当に裏切ってる可能性もあるわけだが、それを疑って起きる組織の分裂も深刻だ。第二次世界大戦で、物資の不足したドイツ軍は本物の地雷と空き缶をランダムに埋めて連合軍を混乱させたのに似ている。こうしたジレンマは、古典的だが分かっていても避け難い罠だ。

 この罠に打ち勝ちうる信頼を持つ人間関係は滅多に存在しない。もし誰か一人だけでもそんな信頼をおける人がいればそれは宝物と言って良いだろう。

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