大僧正行尊

 もう散りつつある地域もあるでしょうが桜の季節なので今日は大僧正行尊のお話しをします。大僧正行尊は三条天皇のひ孫にあたり天喜三年(1055年)に生まれました。園城寺(三井寺、天台宗寺門派本山)で出家し、修験の行者として高名でした。保安四年(1123年)に第四十四世天台座主に就任、天治二年(1125年)に大僧正となります。「行尊大僧正集」には各地の霊場を巡った際に詠んだ歌も見られます。

 行尊の歌でもっとも有名な小倉百人一首の第六十六番「諸共に哀と思へ山桜 花より外に知人もなし」も大峰山に修行に入った時に思いがけず山桜をみて詠んだ歌とされます。思いがけずと言うのは時期的なものか地理的なものかで意見が別れていますが、「行尊大僧正集」の記載からは地理的なものと思われます。通常は桜を見かけない深い山で思いがけず山桜に出会って詠んだ歌な訳です。

 山奥に人知れず咲いて散っていく桜は、たまたま修行で深山に入った行尊以外に知る人も無く、その時の行尊を知る人もまた誰もいないのですが、その情景をこの山桜以外に誰も今の自分を知らないと詠んでいます。寂しさの中に認識する者と認識される物が渾然一体となる感覚は、ものの哀れと感じさせるのと同時に、我執を離れる修行者の観点であるようにも思えます。

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