ワクチン陰謀論

 ワクチンはその発祥の時期から根も葉もない風評被害に遭ってきました。一般的な医薬品と同様に一定割合の副作用の出現は避けられませんし、ワクチンを接種された者が効果を直接実感することもありません。それ故に何か変な事に利用されているのではないかと不安を持つ人らによるワクチンの妄想や陰謀論は後を絶ちません。

 もちろん、公衆衛生学的経済学的にみればワクチンの効果は絶大であり、死者を減らし経済的損害を軽減します。また、ワクチンは基本的に健常者へ予防的に接種するものなので、安全性の確認も慎重に行われます。ただ100%の安全はありえません。その効果に対して副作用による被害を政治的に無視して構わないと国家権力が判断した場合にワクチンは使用されることになります。ワクチンは医学の問題だけでなく政治的な側面も強いのも、マスコミすら陰謀論に加担しやすい素地といえるでしょう。

 マスコミがワクチンによって副作用が出た例を取り上げること自体は事実なので問題ないのですが、ワクチンにより得られた公益について触れずにワクチンを廃止すべきだという結論に誘導するのは間違っています。もちろん、公益性を考えても医療行政の推進により被害者が出るのを嫌うという考え方は、個人的には同意しかねますが、その思想自体は否定すべきではありません。議論で解決すべき問題ですのでマスコミにはバイアスを極力排除した報道をお願いしたいものです。

 偏ったマスコミ同様に危険なのはSNSなどに流れる陰謀論で、このワクチンは偽物で日本人を絶滅させるために某国から送り込まれた遅効性の毒だとか、世界的大富豪が人類を奴隷とするためにワクチンにマイクロチップを仕込んでいるとか、何の効果も無いワクチンを世界中の政府と製薬会社と医療関係者がボロ儲けをするために結託して広めているとかいうものです。普通の人からみたらバカバカしい話でも、それを信じて過激な行動をする人達がいるので油断は出来ません。

 彼らが何か犯罪行為をする恐れもありますが、そもそも論としてワクチンは多くの人に使ってもらわないと公衆衛生学的効果を十分に発揮してくれません。あまりワクチンを接種しない人が増えると良くないのは間違いないのです。これに対して、ワクチンを推進する立場の医師や行政は、正しいことを説明すれば国民は納得して従ってくれると思っている節がありますが間違っています。全体の為だろうが自分の為だろうが、そのための僅かなリスクを得ることを嫌う人に、医学的統計学的な正しさを説明しても意味はありません。飛行機が墜落することを心配して目的地まで夜行バスで行く人がいたとして、道中事故にあって死ぬ確率は後者の方が高いわけですが、そう説明しても飛行機が怖くて嫌いな人の気持ちを変える事は出来ないのです。

 逆説的ですが、感覚的にワクチンが怖くて接種したくないから陰謀論やデマを信じている例も少なくないと思います。そんな人達をどう説得するかは悩ましいところです。しかし、そういう妄想を信じてしまうような可哀想な人達に向かって馬鹿者よと罵倒しても多分いうことを聞いてくれません。感情的な不安の払拭に重点をおくべきです。

 ただし、明らかにこういう不安を抱えた人達を狙った詐欺商法としてワクチン陰謀論を唱える人達はおり、彼らは法的制裁を受けるべきです。正しいことを説明しても必ずしも理解されるとは限りませんが、デマ情報を遮断し、その発信源に刑事責任を問うことは状況改善の役に立つと考えます。

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