PCR陽性と感染は違うのか?

  最近、「PCR陽性と感染は違うんだ!騙されるな!!コロナは無害なんだ!!!」などと妙な事を言う人が増えてきているので何事かと思ったら、一部のYoutuberなどが左様な事を言っており影響されたのだろう。結論から言うとこの論法には無理がある。多少複雑だが以下に説明する。

 たしかにPCR陽性には偽陽性も含まれる訳でPCR陽性者全員が感染している訳ではない。しかしながら、感染していない人がPCR陽性になる確率は極めて低い。今回の新型コロナウイルスの検査に関してはキットの差もあるだろうが概ね特異度(感染していない人がPCRで陰性となる率)99%とも言われている。実際に先月、島根県の大学生1人がPCR陽性になったことを受け、やや大げさすぎる感もあるが、大学に通っていた学生と教職員全員593人のPCR検査が行われて全て陰性だった。仮に特異度99%なら偽陽性の期待値は6人程度だから、かなりいい結果だ。つまり、現状で有症状者や感染者との接触者をPCR検査して陽性ならば、感染していると言って実務上問題はない。

 だが一方で市中の実際の感染率が著しく低い場合に症状や接触がない人まで全て検査すれば、偽陽性の数は真の陽性の数と比較して無視できないほど大きくなるので、PCR陽性が感染を意味しないと言う話は成り立つようになるので注意が必要だ。要は検査の方法によりPCR陽性者が感染とは限らないという言葉の重さは変わるということだ。また百歩譲って厳密な意味でPCR陽性者と感染者とは違うと認めたとしても、それが新型コロナウイルスが無害であることを保証しないし、同じ検査方針でPCR陽性者が増えていれば患者数増加のトレンドにあることは演繹できるだろう。

 また、ウイルスではなく細菌の場合は人間と共生しているとか保菌しているだけの状態で、病原性を発揮していなければ感染とは言わない。よく院内感染で問題になるMRSAなども、それによる病気が起きずに人の体を環境として周囲と調和して繁殖している限りは感染とは言わない。この状態でMRSAがいる場所、例えば鼻腔から検体を採取し培養すると当然MRSAは陽性となる。この話を引き合いに出して、それ見たことか検査陽性は感染じゃないじゃ無いかと言う人がいる。そういう人にまず始めに言っておきたいのはウイルスと細菌は違うってことだ。細菌は、例えば古くなったお弁当とかで増殖する。梅雨や夏場の食中毒の原因だ。細菌は環境が整っていれば自分で増殖できる。一方でウイルスは、他の生物の細胞に感染(侵入)しないと増殖出来ない。付着したウイルスが活性を失うまで何日とか言う報道を見た人も多いかと思うが、ウイルスが勝手に増えるのならずっと活性を失わない場所だって無くては困る。とにかく、PCR陽性になる量のウイルスが検出されたのならば、既に感染してその人の体の中でウイルスが増幅を始めていると考えて問題ない。もちろん、膨大な数のウイルス粒子を含んだ飛沫や唾液を大量に吸い込んで口や鼻の中に付着している状態でPCR検査をして陽性になるレアケースの可能性は否定しないが、そんな状態がもしあればそれはそれで感染する危険が高いしそもそも区別出来ないので隔離が妥当だろう。

 ウイルスでもヘルペスウイルスのように日頃は症状が無いけど時に再活性化したりするものも有るし、HIVのように体内にウイルスがいるだけのキャリアの状態でAIDSを発症していない事もある。こういう事例をもとに、ほらウイルスが体内にいても発症しないじゃないかと言う人もいるが、インフルエンザウイルスもコロナウイルスも一度治ったら次に感染するのは体内に潜んでいるウイルスの再活性化ではなく、外から再感染する必要がある。特に新型コロナウイルスは発症する数日前から他人へ感染させる力を持っている。発症せずにウイルスが排除される人もいるだろうが、無症状のPCR陽性者がいたとして数日後に発症しないと誰が分かるというのだろう?また、一部の人は感染者の語義をキャリアを除外する有症状の患者と限定しているようだが、もしその言葉遊びに付き合うとしても、現状でPCR陽性者と感染者を区別して対応する事はできない。

 大体、この暴論を言っている人の多くがほんの少し前までは、「欧州を見ろ!オセアニアを見ろ!コロナはもう終わったんだ!!第二波なんてこない!!!逆らうやつは国賊だ!!」などと勇ましい事を言っていたが、欧州でもオセアニアでも再び患者数は増えている。もちろん日本でも増えている。日本での患者数が増えたときも検査数を増やしたから云々と言い訳をしていたが、検査数が増えたあとも感染者の増加傾向は続き検査陽性率も上昇したため、その言い訳が使いづらくなり、次に出てきた言い訳が「PCR陽性者は感染者じゃないもん!」というエクストリームな言い訳だったというのがオチだろう。どうにか第二波もおちついてほしいところだが、このまま重症者が増えてきた場合に今度はどんなトンデモ言い訳が飛び出すのかには少しだけ興味がある。

 もし心配するなら偽陽性で無くて偽陰性の方を心配してほしいものだ。PCR陰性は非感染を意味しないのだから。

 ただ、驚くべきは割と知力が高そうな人もこの暴論に乗っかっている例が散見されることだ。実に興味深い。どんなバイアスがかかると人は騙されるのか?新たな課題だ。

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