不思議の国のアリス症候群

 不思議の国のアリス症候群というふざけた名前の症候群があるのをご存知だろうか?英語でもAlice in Wonderland syndromeで略してAIWSだ。その名の通り、自分の体の全体や一部が大きくなったり小さくなったりするように感じたり、見える物の大きさや距離や位置にも奇妙な変化がおきたように錯覚したり、空中浮揚しているような感覚が出たり、周りの時間と主観的な時間の流れの速さがずれて感じられたりすることを主な症状として、自分の心や体が別のところにもあるような感覚が生じることもある。患者はまさに、アリスが不思議の国に迷い込んだかのような体験をすることになる。

 このAIWSは、いろんな病気が原因で起きる症候群だが、原因として最も多いのは片頭痛だ。不思議の国のアリスの作者であるルイス・キャロルも実は片頭痛を患っており、この有名な童話は作者自身が体験したAIWSを元に書かれたとされる説もあるほどだ。AIWSは片頭痛の中でも発作の前兆として視野障害、めまい、意識障害、喋りにくさなどのいわゆる脳幹性の前兆を伴う患者の約14%にみられるとも言われているが、実臨床の場ではほとんど見かける事はない。

 この患者を見かけることが少ない理由は、このような奇妙な症状を正直に話したら余計な詮索を受けるのでは無いかとの心配で患者があまり話したがらないからとも言われる。実際に、違法薬物中毒を疑われたり、精神疾患を疑われたりして、不要な検査や治療を受ける人もいるので患者の不安はある意味で当然だと言える。精神疾患などは鑑別としては必要だが、片頭痛にともなうAIWSを知らない医者の方が多く、見落とされて誤診されたら悲劇だ。こうした症状を誰にも話せないまま不安を抱えて生きている人も多いのは間違いない。だが、患者の側がAIWSを知っていれば、主治医にそれを伝えて調べてもらうことも出来る。AIWSと診断がつけば、原因不明の異常な体験に伴う不安感は解消されるし、原疾患の治療で症状の改善も図れる。もし、これを読んでいる片頭痛の患者さんでAIWS様の症状があって不安な人は主治医に相談してみる事をお勧めする。

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