利休百首より

 千利休は誰もが知る日本史上最大の茶人です。日本に喫茶の風習を広げたのは臨済宗を伝えた栄西禅師であり、以後も日本の茶の文化は禅を中心に仏教文化とも深い縁があります。わび茶の創始者とも言われる村田珠光は浄土宗の僧でしたが、臨済宗の一休禅師とも関係があったとされます。千利休の利休も在家仏教者の居士号で正親町天皇から賜ったものです。

 さて、今回はそんな千利休が茶道の初心者にその精神、作法、心得を和歌で説いたものを百首集めた利休百首の中から最後の一首を紹介します。


 規矩作法守りつくして破るとも
 離るるとても本を忘るな


 茶道の規則や作法をまずはしっかり覚えて守ることが大切ですが、茶道はお客様にお茶を飲んで頂くものです。気候や炭の具合の変化などの外的な影響もありえますので、当初の計画どおりに作法を守った結果として美味しいお茶が出来ないとなれば本末転倒です。本来の規則や作法の精神を守りつつ必要に応じてはこれを破るアレンジをした方が良いこともあるのです。

 この短歌に出てくる、守、破、離、の三つの漢字をつなげて守破離という言葉ができました。守破離とは茶道をはじめ日本の芸能や武道の修行過程を示すものです。それは、「守」先人の教えを守った修行をして、「破」十分に訓練した結果として状況に応じた改良が可能となり、「離」ついには新たな境地を切り開くに至る、というものです。

 この歌は基本の大切さと基本の積み重ねに裏打ちされた柔軟さの大切さを伝えているのです。仏道もまた然りです。基本的な教えは大切ですが、それにこだわり過ぎては失敗することもあります。例えば目の前で子供が暴漢に襲われそうになっていたら、仏教的に暴力はいけないという規則を守って動かないのではなく、即座に子供を助けましょう。

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