アヤソフィア
異文化や異なる宗教の融和の象徴とされていたトルコのイスタンブールにあるアヤソフィア(聖ソフィア)博物館が再びイスラム教の礼拝所(モスク)にされようとしてる件につき考えてみました。
アヤソフィアは元々は東ローマ帝国帝都コンスタンティノープル(現イスタンブール)に建つ正教会の大聖堂でしたが、1453年にオスマン艦隊の山越えで有名なコンスタンティノープル包囲戦で古代ローマからの伝統を紡いできた東ローマ帝国が滅びオスマン帝国に占領されると、アヤソフィアもモスクに改装されました。その後、第一次世界大戦でオスマン帝国が滅びると世俗化したトルコ共和国の初代大統領アタテュルクにより1935年にアヤソフィアはモスクから博物館へとなりました。こうしてモスクだった時は漆喰で塗りつぶされていた東ローマ帝国時代の貴重なモザイク画が再び日の目を見ることとなり1985年には世界遺産に指定されています。博物館となったアヤソフィアではその内部での宗教行事は禁止されていましたが、2020年5月にトルコのエルドアン大統領がコンスタンティノープル征服567周年記念式典をアヤソフィアを会場としてひらいてコーランを朗読し、7月10日にはアヤソフィアをモスクに戻す大統領令に署名しました。
アヤソフィアは博物館とはいえイスラム教にもキリスト教にも大切な歴史的建造物でした。今回のエルドアン大統領の決定はキリスト教徒やそもそも宗教を嫌う左派層からは批判を受けています。一方でイスラム教徒からは概ね支持されています。イスラム教では偶像は厳禁ですので熱心なイスラム教徒にとってはモスクであるアヤソフィアにキリスト教聖人らの絵がある状況は断じて許しがたい神への冒涜だったのです。トルコは世俗主義の共和国ですが住民のほとんどはイスラム教徒であり、また同時に民主主義国でもありますから、おそらくアヤソフィアのモスクへの転換は抵抗無く実施される事になるかと思われます。
今回の問題に対して各宗教の信者が良いとか悪いとか言うのは分かります。しかし、欧州の左派市民ら言う異なる宗教の調和や融合を壊すと言う批判はちょっと的外れかなと思います。異なる宗教は互いに協力し合う事はあっても融合をしてしまえば、それはもう別の宗教になってしまいます。左派の人は各宗教の歴史的文化的価値を持つ物を並べ美術品かのごとく展示して分かった気になる傾向がありますが、信仰と言う視点が欠落しています。そう考えるとあえて博物館だと強弁することで、お互いに譲歩不可能な宗教的な不満や対立を封じ込めてきたトルコ共和国建国の父であるアタテュルクの決定は政治的には正しかったのかも知れません。
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