ALS患者の殺人事件、その2

 ALS殺人事件の続報です。昨日のブログでは被害者は人工呼吸器をつけた状態の患者様では無いかと推測していましたが、その後、人工呼吸器をつける前(つける意思がない)患者様だったと報道されました。昨日いったように、このような場合に精神的肉体的な苦痛を除く目的で治療をしその結果として呼吸に障害が起きても殺人とはみなされませんが、今回は殺害目的で投薬しており明らかな殺人です。被害者から殺害の依頼があったのも事実の様です。被害者は発症から7年目になる経過が長い患者様で、その心身の苦痛をネット上に吐露したところを犯人に見つかって狙われたと伝えられています。

 犯人の過去の言動では、高齢者への医療は社会資源の無駄だとか、寝たきりの高齢者を殺すように示唆するなどの異常な物がみられており、今回の殺人に関しても善意の安楽死幇助などではなく、彼らの視点で寝たきりで社会資源を浪費する病人を排除することに目的があった可能性もあります。

 ALSの患者様が人工呼吸器をつけるか否かは個々人の価値観の問題ですが、どちらを選択しても悩みは生じるものです。そういう弱った人を見つけて己の歪んだ理念の元に殺害するのは断じて許しがたい行為です。司法の適切な判断を願います。

 一方で、人工呼吸器をつけない選択をして亡くなった患者様の家族や主治医に対して、殺人者などとの罵詈雑言を加える心無い人達もいます。これも正直いかがなものかと思います。そういうひどいことを言う人は、患者は生きていたかったはずで介護を許さない家族や社会に死を強要されたと主張しますが、人工呼吸器の管理を伴う介護も今日では本人が希望すれば普通に可能で、そのことは十分に説明されます。見当違いも甚だしい批判です。こうした問題は自分の価値観だけが正しいと信じることから生じるもので、今回の殺人医師の考え方と本質はなんら変わりありません。

 このようにALSにまつわる問題は大変複雑です。ALSの診断は、上位下位の運動ニューロンが障害されて他の疾患が否定される場合につけられますので、実のところ疾患として単一の物ではありません。このため、発症からわずか数ヶ月で急速に進行して亡くなる方もいれば、ホーキング博士のように呼吸筋が麻痺することなく何十年も生きる例もあります。ただこの世で最も恐ろしい難病の一つであるALSはその研究も盛んです。やがて、治療法が確立されれば、こうした複雑な問題も解消される事でしょう。私が生きているうちには難しいかも知れませんが、こうした悩みがいずれ過去のものになる様に祈ります。

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