ALS患者の殺人事件

 本日の報道で、筋萎縮性側索硬化症(ALS)の患者様を安楽死したとして医師二人が逮捕されていた。ALSは脳脊髄と末梢神経の運動神経のみが選択的に障害され徐々に動けなくなっていく、意識も感覚もハッキリしたまま徐々に筋力が失われていく病気だが、眼球運動は保たれる事が多い。報道によるとこの医師らは元々、病院で家族らから死んでほしいと願われている患者を密かに殺害するようにほのめかす電子書籍も上梓しているといい、ネット上の書き込みでも老人医療をお金の無駄遣いと切り捨てていたという。この事件も主治医ではなかったことから、更に余罪がある可能性もある。殺害された患者様は全身が動かず、声も出せず、機械(僅かに動く部分にスイッチをつけパソコンなどの入力を補助する機械がある)でパソコンの操作は出来る状態だったという。死んだ本人の意思の確認も未だ取れておらず今回の事件も果たして本当に安楽死だったのか弱者を社会的害悪とみなしての殺人事件だったのかわからない。

 さて、いくつかの報道を確認したのだが、この患者様が人工呼吸器をつけている状態であったのかどうかは分かっていない(注)。ALSの生死を語る上で、この機械が患者様に取り付けられているのかどうかは重要な問題だ。有名人のALS患者では先日お亡くなりになった天才物理学者のホーキング博士が有名だが、彼のように人工呼吸器をつけずに長期生存する例は極めて稀だ。一般的には発症後数年で呼吸する筋も麻痺する。ここで患者様に突きつけられる大きな問題が、呼吸筋が麻痺して息が出来なくなった時に人工呼吸器を使うかどうかだ。日本の法律では人工呼吸器を使用しないと死亡が確実な患者様がつけている人工呼吸器を外したり機能を停止させれば殺人罪になる。だが今から人工呼吸器をつけないと近い将来死亡することが確実な患者様が人工呼吸器をつけるか否かは患者自身の意思で決定可能だ。

 人工呼吸器を使用しないと決断した患者様の呼吸状態が悪化し本人が苦しくなってきた時に苦痛を除去する薬を投与して、例えその影響でいくらか呼吸に悪影響を及ぼす副作用が生じても基本的には罪に問われない。だが、人工呼吸器をつけたあとでいくら患者様に懇願されても死期を早める可能性がある処置は不可能となる。世間に出版されているALSの書籍などは、人工呼吸器をつけた患者様がいかに素晴らしい人生を送っているかを紹介する物がほとんどだが、個々の患者様の性格によっては、なぜ人工呼吸器をつけてしまったんだと悲嘆にくれる人もいる。今回の殺人事件もこうした患者につけ込んで行われた可能性もある。人工呼吸器をつけたALSの人が自分の身の上を嘆いているのならば、するべきは自殺幇助ではなく精神的なケアだ。こうした事例で人工呼吸器の停止が刑法上認められる可能性はなく、今後の法改正もほぼ無理だろう。

 未だ詳細がわからないので断言は避けるが、今回の事件は善意の安楽死ではなくもしかしたら大量殺人事件の可能性もあり、以後の報道にも留意したい。


(注)夜に人工呼吸器装着前であるとの記事が出ました。

コメント

このブログの人気の投稿

妙好人、浅原才市の詩

現代中国の仏教

懐中名号