新型コロナウイルス感染症についての日本内科学会の講演会・シンポジウムのまとめ

 2020年4月12日に日本内科学会メンバー向けにLive配信された講演会とシンポジウムのまとめですが、サーバーが落ちたようで当日は見られませんでした。内容もあくまでも個人的なまとめで網羅的ではありませんが参考にしてもらえれば幸いです。

第一部 基調講演

1.疫学と今後の動向  鈴木基(国立感染症研究所 感染症疫学センター長)
 20〜50歳代の感染者が68%を占める。男性の感染リスクが高い(全体の6割)。男性、60歳以上、慢性疾患(糖尿病、高血圧、高脂血症、がん、心血管疾患)が重症化に関係している。無症候病原体保有者の半数はその後発症し、一部は重症化する(6%ほど人工呼吸器管理となる)。症状の無い感染者もしっかり観察する必要がある。発症から診断確定までの期間は短縮傾向にあるが、症例数の増加に伴い、一部地域では延長傾向を認める(日本平均で6.3日、東京で8.37日、秋田は2.88日)。


2.クラスター対策  押谷仁(東北大学大学院医学系研究科 教授)
 感染者のうち多くの人は誰にも感染させないが、一部に1人から多くの人に感染させる例がある。クラスターを見つけて二次感染を防げれば感染の封じ込めは可能だが、COVID−19では多くの感染者が無症候・軽症であり全ての感染連鎖を見つける事はほぼ不可能。軽症者が多い青壮年層のクラスターではそれを覚知できずにより大きな感染拡大になる可能性がある。接触機会を減らすのが大事。
 日本の対策の三本柱として、クラスターの早期発見・早期対応、患者の早期診断・重症者への集中治療の充実と医療提供体制の確保、市民の行動変容、がある。クラスター対策の基本としては、地域別に、まず全ての地域で三密を避け、クラスターを早期に発見する。感染が拡大した地域ではより三密を避ける為の対策を徹底し、外出の自粛を呼びかけ、クラスター対策の主体は医療機関や高齢者施設へシフトする。さらに感染拡大が続く場合、もしくは医療体制が維持できないと考えられた場合、特措法による緊急事態宣言を行い、外出の自粛要請・施設の使用制限などより積極的な対策を行う。
 どのような条件でクラスターは形成されるのかは、いわゆる三密や、換気量が増大するような活動、大声を出す、歌う、一対複数の密接した接触があり、また多くは咳・くしゃみが無く通常の飛沫感染では無い。上気道のウイルス排出量は重症度ではなく年齢に依存(高年齢ほど排出するウイルス量は多い)。ウイルスの排出は重症度とは相関しないので、むしろ症状の軽い人の方が活動的でクラスターを形成する可能性が高い。実際にクラスターを形成した人の多くは軽症。各世代で感染拡大に寄与しており、若年層だけが問題では無い。
 日本での流行は現在第二波でこれが破綻しかかっているのは、まず患者数の増加に対してPCR検査数が増えてこない事、病床の不足、院内・施設内感染が大規模化し続発、重篤な感染者に集中治療ができない状態になりつつあり東京などでは救急医療そのものが破綻しかかっている。


3.感染対策と治療  川名明彦(防衛医科大学校 感染症・呼吸器内科教授)
 治療として、患者の8割が軽症、発熱、乾性咳嗽など症状は通常のインフルエンザや感冒と区別がつかない。予後不良因子は白血球数増多、リンパ球減少、好中球増加、Dダイマー上昇、BUN上昇、Cre上昇などがある。胸部CTで肺野に多発性のGGOや乱れ敷石様の変化がある。効果が期待されている薬剤で治験中、ファビピラビル(アビガン)催奇形性あり、シクレソニド(オルベスコ)、ナファモスタット(フサン)がある。他、ロピナビル・リトナビル(カレトラ)には効果なしと見られる。COVID−19感染症でARDS化した患者にメチルプレドニゾロンを投与すると使用した群では46%が死亡、使用しなかった群では61.8%死亡しており、一定の効果はあると思われる。自験例の提示があり、特定の薬がとてもよく効いたという印象はない。一部症例に全身ステロイド投与が効くかもしれない。各種治験の結果を要するとの結論。
 感染対策としてCOVID−19疑い/確定患者対応の際、アメリカCDCの例を挙げ、外来においては来院の前に呼吸器症状があるかどうかを確認する、外来トリアージステーションの設置を検討、患者に咳エチケットを実施させ、手指衛生の為の環境を提供し、換気の良い分離された場所で診察し、待機的手術や一般外来受診は延期する。入院はドアの閉まるトイレ付きの個室に収容、エアロゾルの発生する手技を行う場合は陰圧個室を使用、以下は医療資源の枯渇に伴う処置として、COVID−19患者を同室に集めることを許容、患者エリアにX線装置をおいて置くことを検討、患者エリアではゴールグルとマスクは交換せずガウンと手袋のみ取り替えることも許容、N95マスクの再利用や長期使用を許容する。個人防護具としてはN95以上の高性能マスク、フェイスシールドかゴーグル、滅菌手袋とアイソレーションガウンを推奨している。新型コロナウイルスは環境内でもしばらく生存するので、聴診器や体温計は患者個人用とする。気管挿管時に多くの飛沫が飛び全身に付着するのでより厳重な防御を要する。



第二部 パネルディスカッション

司会:矢冨  裕(日本内科学会 理事長)

1.感染症医の立場から        舘田 一博(日本感染症学会 理事長)
 Worldometerの情報を提示、日本はなんとか持ちこたえているとされていたが、オーバーシュートの危険がある。その前に医療崩壊が起きる危険もある。医療崩壊を防ぐためにハコ(施設)、モノ(人工呼吸器や個人防御具など)、ヒト(医療スタッフ)、の充実が必要。感染蔓延期の方向性として、重症例の命を守り、軽症例の集中による現場混乱の回避、感染者に対する差別が生じないようにする。日本モデルとして、クラスターの早期発見・早期対応、患者の早期診断・重症者への集中治療の充実と医療提供体制の確保、市民の行動変容が大事である。通常の風邪のコロナウイルスは10月ごろから増え7月頃に減少する傾向がある。新型のコロナウイルスがこのように動くは不明だが、季節変動がある可能性もあり注意深い警戒が必要。

2.呼吸器内科医の立場から      長谷川好規(日本呼吸器学会 理事長)
 呼吸器科医は全医師の3.9%しかおらず他分野の助けがいる。ウイルスによる直接的な問題以外に、風評被害やスタッフや病院に対する誹謗中傷が懸念される。これを防ぐために積極的な情報開示が必要。医療連携のみでなく社会の理解と応援ができるようにしたい。ステロイド投与に関しては賛否両論あり研究中。

3.老年内科、高血圧治療の立場から  楽木 宏実(日本老年医学会 前理事長・日本高血圧学会 副理事長)
 高齢者には新型コロナウイルス感染症が重症化しやすく、家にとどまるように言われているが、このために生活が不活性化することによるフレイルが起きる恐れがある。居宅サービスマスクや手袋の利用や手指消毒などの注意を促している。
 国際高血圧学会の声明として、降圧薬のARBが患者予後を悪化させるのでは無いかとの報道について、動物実験のレベルでは危険性も予測され臨床試験も実施中だが、現在エビデンスは不十分であり、ARB中止による種々の危険性を考えARB続行を勧告している。

4.リウマチ・膠原病内科医の立場から 竹内  勤(日本リウマチ学会 理事長)
 免疫抑制下にある患者を多く抱える膠原病内科の意見を日本リウマチ学会のサイトにも発表している。今のところは免疫抑制剤投与者の感染リスクが上昇するというエビデンスは無く、COVID−19の病態に炎症性サイトカインや免疫が関与していることも考慮し、原則として同じ用量で継続投与、感染症の兆候がある場合はステロイドは原則同用量で維持し、他の薬剤は減量や投与の一時的延期を慎重に検討し、通常の感染症時と同様に対応する。薬剤の中止は推奨しない。病気の初期には免疫が弱く逆に重篤化すると過剰な炎症やいわゆるサイトカインストームや二次性血球貪食症候群などの過剰な免疫による障害が起きる。ステロイドの全身投与は有効かもしれない。抗ウイルス薬に加えてサイトカインストームの治療が必要。社会に対するシンガポールの対応は早かった。日本も各科横断的な協力が必要。

5.総合ワークショップ
 SARSの際のスーパースプレッダーは三密環境とウイルス排出が多い個人の二つの要因があると思われる。
 孤発例が増えており、専門医だけでなく病院全体や日本全体での対応が必要。
 風評被害を恐れてか一部に診療情報を隠匿する病院もあるので困る。社会の応援も必要。シンガポールのように社会に向けた働きかけも必要。
 多職種にもしっかり情報を届ける必要がある。
 報道機関が社会的スティグマを生んでいる。
 迅速診断キットの開発、重症化の予測因子、治療薬ワクチンの開発を早く進めたい。
 今後、COVID−19から逃れることは出来ない。恐れることなく診療するように。
 軽症者は自宅などでの待機となっているが、1割は重症化すると思われ注意が必要、また確実な隔離が出来る様に支援が必要。

 6.まとめ
 内科学科として医師や社会に情報を発信してCOVID−19治療に寄与する。

☆パネリスト
舘田 一博(日本感染症学会 理事長)
脇田 隆字(国立感染症研究所 所長)
鈴木  基(国立感染症研究所 感染症疫学センター長)
押谷  仁(東北大学大学院医学系研究科 教授)
川名 明彦(防衛医科大学校 感染症・呼吸器内科教授)
長谷川好規(日本呼吸器学会 理事長)
楽木 宏実(日本老年医学会 前理事長・日本高血圧学会 副理事長)


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