緊急事態にいかす六波羅蜜

 以前、介護や終末期医療に活かす視点での六波羅蜜(大乗仏教の修行項目)の解説をした事がありましたが、今回は、現在の緊急事態に活かす六波羅蜜としてまとめなおしてみました。

 六波羅蜜は布施、持戒、忍辱、精進、禅定、智慧の六つです。順に見ていきましょう。

 まず、布施です。他人に物や精神的な施しを行う事ですが、緊急事態下においては上手く助け合いを行う為に活かせます。布施は施す人と送られるものと施される人の三つが清らかである必要があります。例えば昨今不足しがちなマスクをどこかに寄付する場合の話を考えてみましょう。
 マスクを寄付する人が清らかであるというのは、これを寄付することで例えば選挙の票につなげようとか、自分の名声をあげようとかという貪りの心があれば清らかではありません。困っている人のための慈悲の心が第一です。慢心が生まれないように気をつけましょう。
 送られるマスクが清らかとは、例えば盗品や、汚染され廃棄されたマスクを洗浄し新品と偽って用意したものなどは清らかと言えません。
 マスクを施される人が清らかとはどういうことでしょか?この場合、例えばマスクをもらう人が、不当な高値で転売しようとしている業者では清らかとは言えません。
 布施を行う時にはこういう事に気をつけましょう。また、単に物を送るだけでなく優しい言葉を送ることや、自主隔離で買い物にいけない人の買い出しを手伝い、玄関先に届けることなども布施です。大乗仏教はそれまでの仏教より利他や慈悲の心を強調しているのが特徴です。出来る範囲で良いので困っている人の役に立つことをするようにこころがけましょう。

 次に、持戒です。在家信者には通常、人を殺さない、物を盗まない、邪な性行為を行わない、嘘をつかない、お酒を飲まない、の五つの戒(五戒)が適応されます。お酒以外は何を当たり前の事をと思われる方も多いでしょうが、今回、全世界での経済的な混乱がおきており、今後も多くの倒産や失業者が生まれます。こうした不況の影響で生きていくだけで精一杯になった人達がこれらをまもって生きるのは実は大変な事です。また、このご時世では多くのデマや嘘の情報が飛び交っており、注意せずにその嘘を他の人に知らせると、期せずして嘘を広げ、その結果だれかが死ぬような事になる恐れもあります。あたりまえの五戒を守るために自分の行動に注意を払う必要があります。また、飲酒は日本の文化との声もありますが、酔っ払うと注意力がおちて他の戒をうっかり犯すことも増えますので、これも用心が必要でしょう。

 三つ目は忍辱です。忍耐や我慢をすることですね。しかし、なんでもかんでも我慢すれば良いわけでは無く、社会的な不正義には抵抗するべきです。ただその時も、自分の正義を盲信し相手に怒りをぶつけて断罪するような行為は忍耐が足りません。また悪いことをすれば大きな利益が得られそうな時に貪りの心を我慢するのも忍辱です。世の中が混乱すると何かと不和や衝突が増えるものです。そんな時に怒りを爆発させたり、自分だけが良い目にあおうと他人を蹴落としたりすれば、混乱や争いはますます悪化します。怒りや貪りの心にとらわれると冷静な判断も出来なくなり騙されやすくもなります。怒りや貪りを耐え忍ぶこととは、物事を冷静に見る目を守り自分に役立つことでもあるのです。

 四つめは精進です。努力することです。何を努力するかと言うと、善いことを行い、悪いことをしない、既にある善いことをさらに進めて、既にある悪いことは断ち切ることです。何が善いか何が悪いかを判断するためには冷静さが必要です。持戒や忍辱でつちかわれた冷静さが活かせます。極端な意見を避ける立場に立つようにしましょう。この緊急事態下においてはどうでしょか?例えば、ある政治家がこの危機に対して何かをしたとしましょう。その行為を冷静にみて善い悪いを判断する事は、極端な視点ではありません。判断する人によって意見の差があっても議論することが出来ます。一方で、この政治家がすることは全て善いとか逆に全て悪いとかと決めつけるのは極端です。行為の中身は検証されずに、行動の主体によって善悪が先に決定してしまうので議論の余地もありません。この様な例では、その政治家への個人的な盲信や嫌悪にこだわってしまって、その周囲の事柄が冷静に見えなくなっているのだと思われます。人間、相手に対する好き嫌いの偏見は避けがたいですが、なるべく偏見を無くすようには努力しましょう。

 五つ目は禅定です。かなりはしょると精神を集中させる事です。緊急事態においては絶えず高度なストレスにさらされた生活を余儀なくされて、精神的にも肉体的にも疲弊してきます。そんな多忙な時ですが、少しでもゆっくりして精神を集中させる時間が持てると、冷静さを呼び戻し、心身をリラックスさせるのに役立ちます。そもそも大乗仏教では日常生活の中に悟りを見出すものです。あまり修行だと気負わずに、数秒でも目をつぶって息をととのえたり、宗派によりけりですが、題目や念仏や真言を心に唱えるだけでも心にゆとりが生まれます。騙されたと思ってやってみましょう。きっと効果はあります。

 六つ目は智慧です。そのまんま智慧の意味ですが、知識量や計算能力などではなく、物事を冷静に極端を避けて見ることが出来る状態が智慧がある状態なのです。これは、先の五つの波羅蜜によって成し遂げられますし、智慧があることで先の五つの波羅蜜がより上手く行えるようになります。厳しいこの時代に智慧の重要性はさらに増しています。こうして知恵をもって、世のため人のため自分のためになるが大乗仏教の仏道なのです。

 大変な時代ですが、六波羅蜜で難局を乗り越えていきましょう。合掌。

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