シルクロードと仏教

 シルクロードは東アジアと地中海地域を結ぶ歴史的な交易路です。主に中央アジアのそれが思い出されるのは1980年代に放送されたNHKの番組による所が大きいかと思われます。この番組では今に残る仏教遺跡やウイグル人の優しい文化などの紹介があり、一大シルクロードブームがわき起こりました。懐かしい話です。

 大乗仏教は、インドからガンダーラ経由でこのシルクロードにのり東アジアに伝わり、海を渡って6世紀なかばに日本にたどりつきました。この交通路が無ければ、日本に伝わる仏教は今のものとは違っていたかも知れません。

 日本への仏教伝来の100年以上前の西暦400年前後にはシルクロードの天山南道に位置し現在のウイグルのクチャにあった亀茲国のクマーラジーヴァ(鳩摩羅什)により多くの経典が漢語訳されました。この鳩摩羅什は経、律、論の三蔵に通じたいわゆる三蔵法師の初代と言われています。日本人にも馴染み深いものでは仏説阿弥陀経が鳩摩羅什の訳です。今でもお経の大半が漢語で書かれているのはこうした漢語経典が輸入された事によります。

 鳩摩羅什も三蔵法師だった訳ですが、今日、三蔵法師と言えば西遊記で有名な玄奘です。彼もこのシルクロードを通ってインドへ留学しました。唐の国禁を破っての厳しい旅路が脚色されて後に西遊記となったのです。帰国した玄奘は膨大な量の経典を漢語訳しました。最も有名なのは般若心経でしょう。この玄奘の漢語訳経典を新訳、それより古く鳩摩羅什まで訳を旧訳、更に古いものを古訳と呼ばれる程に決定的な量と質の経典が漢語訳されました。

 このようにシルクロードと仏教は縁が深いのです。さて、そんなシルクロードで先日、中国がまた核実験を行ったのではないかとの疑惑が一部報道で伝えられています。ウイグルでは1996年まで中国が核実験を行っていました。また、近年では現代版のシルクロードとも言える一帯一路構想による中国政府とウイグル人との摩擦があり、苛烈な弾圧が行われていると報道されているのはご存知の方も多いでしょう。かつて交易と仏教伝来の道であったシルクロードが、暴力と血で汚されていくのはなんとも悲しいことです。

 あらゆる暴力の停止を祈って、合掌。

コメント

このブログの人気の投稿

妙好人、浅原才市の詩

現代中国の仏教

懐中名号