とりこ信仰

 とりこ信仰とは鎌倉時代頃から日本の複数地域に伝わる、子供の養育に関する信仰で、初子や体の弱い子を、神仏の弟子や養子として扱うものです。地域ごとに呼び名は違いますが、新潟では戦後も曹洞宗の寺院で子供をお地蔵さまの弟子とする風習が残っていました。

 新潟の曹洞宗と言えばまっ先に思い出されるのは子供大好きの良寛さんですが、良寛さんの子供に対する敬意に近い慈しみは、こうした文化があった土地柄にも影響されているのかも知れません。

 とりこ信仰では、子供が成長するまでの一定期間は子は神仏の弟子や養子であり、育てるのは実の親でも子の頭を叩いたり罵倒することなどが禁止されます。もちろん、神仏の縁者で無くても一般論として子供を叩いたり罵倒したりしてはいけませんが、現代と比べて幼児死亡率も高くはるかに過酷な環境にあった昔にあって、弱い子供を特に大切にしようとする大人の誓いがそこには見えます。

 子供達の親や師として扱われる神仏には、先述の地蔵菩薩以外に、観音菩薩、鬼子母神、浅間神社や各地の神さまの他、呑龍様など多様です。

 このうち呑竜様は戦国時代から江戸時代初期に活躍した実在の浄土宗の僧侶です。呑龍上人は徳川家康の祖霊の為に作られた大光院の住職でしたが、ある子供が病の母の為に禁を犯して鶴を狩ってしまい、その子をかばって罰せられてしまいます。後に赦免されますが、大光院では貧しい家の子らを呑龍上人の弟子という名目で引き取って養育したと伝えられています。当時の貧しい家では育てられぬ赤子を殺す例も多く、呑龍上人は子の命を救い親も子殺しの罪から救った偉人です。

 現在ではとりこ信仰が残っている地域もほとんどありませんが、子供を大切にする気持ちは受け継いでいきたいものです。

 それではまた、合掌。 
 

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