女性による妊娠中絶の権利

 ある程度は予測されていたことだが、6月24日にアメリカの連邦最高裁判所が、49年前から認められていた女性の中絶の権利を違憲とした。最近、アメリカの諸州で、母体の危険が予測されようが強姦の結果できた子であろうが人工妊娠中絶を認めないとする法律が次々と成立しているが、許容出来ない。

 母体の危険が予測さえる場合はもちろん、女性側からみて望まぬ妊娠であれば、少なくとも妊娠中期前半までの中絶は女性の意志によるべきだ。なお日本の法律で、妊娠22以降の中絶が不能なのは、それ以降は早産したとしても児の生存が見込めるからだ。要は堕胎が殺人になると判断される週数ということになる。

 ここで問題となるのは胎児をどの時点で人間であるとみなすかだ。今回の中絶禁止の背景にはキリスト教過激派の関与がささやかれているが、例えばカトリックでは受精卵の時点で人間であるとみなす。アメリカで主流のプロテスタントは派閥が多く見解は一定していないが、中絶禁止を求めている人々も概ね受精卵を人間だと考えている。こうした見解だから全ての堕胎は汝殺すなかれとの彼らの戒に反することになる。一方で、人工妊娠中絶を許容するプロテスタントの派閥もある。また、イスラム教でも中絶に一定の猶予を認める見解も存在する。(シーア派の)イスラム法で運営されているイランには治療的人工妊娠中絶法が存在しており、中絶は絶対的禁忌ではない。イスラム法の解釈にもよるが、胎児に魂がこもるのが受精から約4ヶ月後だという説も存在する。ただ、この場合は女性の権利ではなくあくまでも母体の保護が目的とされている。

 ともかく、受精卵から人間であるとみなしている人と、そうでない人の価値観の差は絶望的に大きい。様々な価値観があること自体は別によいのだが、先に言ったようにアメリカでは近年次々と絶対的な堕胎禁止法が複数の州で成立している。今回のアメリカの連邦最高裁判所が中絶に関する女性の権利を否定したのは、この流れを加速させることになる。権利があってもそれを行使しない自由はあるが、今回は権利が否定されたのであり選択の余地はなくなる。深刻な事態だ。

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